研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
16H01499
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本吉 勇 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60447034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 知覚 / 認知 / 時間 / 空間 / 加速度 |
研究実績の概要 |
加速度の処理機構や自然動画の速度による知覚変化について一連の心理物理学実験により検討し,以下の結果を得た.(1) 運動の速度変調に対する検出感度を種々の変調時間周波数で測定したところ,運動刺激を比較的狭い範囲に提示,あるいは検出課題と同時に文字判断課題を行わせ観察者の集中的注意を剥奪すると, 1 Hz程度の加減速に対する感度が最大となった.(2) 速度変調する標的の視覚探索課題において,約2 Hzで速度変調する標的が最も容易に検出された.(1)及び(2)の結果は,緩やかな速度変調に対する高感度が主に注意による追跡の産物であり,初期視覚系には加減速に感度をもつ機構が存在することを示唆している.これらの成果は,国内学会や班会議において発表(優秀発表賞を受賞)したのち,原著論文として国際誌に投稿した.また次年度の国際会議に投稿し,採択された.(3) 加速度が位置や速度の知覚に影響を及ぼすことを予備実験により確認した.この効果は,視覚系が加速度情報から速度や位置の知覚を再構成するという積分的過程と符合する.(4) スロー再生された自然動画の時間長が静止画より(通常の運動の効果とは逆に)短く感じられる現象を発見した.詳細な分析により,直近に提示された動画速度の分布に基づき錯覚が生じていることが判明した.この成果は,国内学会で発表したのち,原著論文として国際誌に投稿した.また次年度の国際会議に投稿し,採択された.(5) 様々な自然動画について,自然だと感じられる再生速度を評定実験により求めた.自然動画のカテゴリや内容が,自然らしさに対する感度とどのような関係にあるか明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定していた研究計画のうち,すべての心理物理学実験をほぼ完了し(一部は予備実験段階),実験を終えたデータについては分析まで済ませている.かつ当初の計画にはなかった新たな実験を実施し,有益な結果を得ることもできた.なお,実験そのものはおこなったものの発表しなかったデータも数多く蓄積されている.研究の成果は着実かつ戦略的に発表され,国内外における学会発表と賞の受賞,および原著論文の投稿へと至っている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでの結果に基づき新たに着想した心理物理学実験を続けるとともに,様々な画像の変化に対する視覚系の時間応答を検討するため,画像に注意を向けた場合と向けない場合とで,コントラスト感度の時間周波数特性や事象関連電位を比較する.特に,視覚系がどのような画像で急峻な変化に対して高い感度を示すかを同定するとともに,過去の様々な実験研究における感度特性と比較し,注意が過渡的な変化の検出にどのような役割をもつか明らかにすることを目指す.また加速度検出機構の特性をフォローアップする.その存在から予測される速度知覚や時間知覚におけるいくつかの錯覚効果を探索し,これらの効果を決定づけている信号のタイプを,追跡眼球運動による時空間座標系の切り分けなどを用い,逆相関分析により特定する.これらに加えて,われわれの前年度までの研究は,離散的で疎な変化の情報が注意の働きを基盤として周期的に統合されている可能性を示唆している.そこで,この周期的処理が位置や速度,時間の知覚に周期的なふるまいとして現れるか検討する.以上の成果は国内外の学会で発表するとともに,複数の原著論文にまとめ国際誌に投稿する.
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