研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
16H01503
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
月浦 崇 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30344112)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 記憶 / 時間 / 場所 / fMRI / 神経心理学 |
研究実績の概要 |
「作話」とは,脳の器質的な損傷による健忘症状に関連して起きる,実際には体験していないことを,あたかもあったかのように話す現象のことである.先行研究では,「作話」症状の原因として,保存されている記憶に関連する時間的情報を処理することの失敗が指摘されているが,この「作話」症状がどのような認知機能の複合的障害の結果として生起しており,どのような脳内メカニズムの障害が関連しているのかについては,未だに十分に解明されていないのが現状である.本研究では,「時間の知覚」や「長期記憶」などの複数の心理過程に着目し,これらの過程の相互作用が「作話」症状の生起とどのように関連し,その関連性がどのような脳内メカニズムを基盤としているのかについて,脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究と,健常者を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)法の2つの異なるアプローチから解明することを目的とした.
本年度の成果として,主に2つの点が挙げられる.第一に,神経心理学的研究として,健常若年成人と健常高齢者を対象として,前向きおよび後向きの時間知覚,記憶における時間的順序判断の課題を実施し,それらの課題成績が健常若年成人と健常高齢者との間で比較された.その結果,前向きおよび後向き時間知覚に関しては前頭葉機能や記憶機能の加齢依存的な変化が関連していることが示されたが,記憶の時間的順序判断に関しては,前頭葉機能や記憶機能以外の加齢変化が関与する可能性が示された.第二に,健常者を対象としたfMRI研究では,エピソード記憶の記銘時において,エピソードに付随する時間情報や場所情報がどのよう処理されているのかが検証された.その結果,外側前頭前野の異なる領域が,時間情報と場所情報の記銘に関連すること,場所情報の記銘に関して,海馬傍回や脳梁膨大部後方領域が主に関与することなどが示された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度までの進捗状況としては,神経心理学的研究およびfMRI研究ともに,おおむね順調に推移している.神経心理学的研究としては,これまでに健常若年成人と健常高齢者に関する時間知覚課題と記憶の時間順序判断課題を実施し,その結果の一部は国内の学会においてすでに発表されている.さらに現在,脳神経外科との共同研究をベースとして同様の検証を前脳基底部性健忘症例において進めており,正常加齢や脳損傷の影響によって変化する時間知覚や時間順序判断のメカニズムが解明されることが期待される.またfMRI研究としては,これまでにエピソード記憶の記銘時において,エピソードに付随する時間情報や場所情報がどのよう処理されているのかが検証され,外側前頭前野の異なる領域が時間情報と場所情報の記銘にそれぞれ関与すること,場所情報の記銘に関して,海馬傍回や脳梁膨大部後方領域が主に関与することなどが示された.この成果は,国際学会にて発表することが決定しており,さらなる発展が期待される.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究として,神経心理学的研究に関しては,前脳基底部損症例に関する時間知覚や記憶の時間順序判断に関する検証を進めると同時に,前脳基底部損症例における「作話」症状の程度とこれらの時間情報の処理との関連を検証し,それらの成果を国内外の学会や論文として発表したいと考えている.fMRI研究に関しては,これまでに実施した実験の成果をまとめて国内外の学会で発表した上で,その成果を国際誌へ投稿する予定である.さらに,経過時間の長さの知覚と記憶との相互作用機構について,新しいfMRI研究を考案し,実験を開始する予定である.
|