公募研究
本課題の目的は、こころの中に過去や未来を描く働きが、進化史の中でいつどのように発生したのかを、多様な動物種の行動の分析により明らかにすることである。28年度の主要な成果を述べる。「過去を想うこころ」に関する成果:1)4つの容器のうち2つに餌を入れ、ネコを誘導して1カ所でだけ採食を許した。その後ネコを部屋から出し、容器を全て新しいものに取り替えてから、15分程度の遅延をおいて、ネコを部屋に入れ、自由にさせた。するとネコは、食べられなかった場所の容器を長く探索した。これは学習理論の予測に合致しない。すなわちネコは一度だけ経験した事象の記憶を思い出して、適応的に行動したように思われる。偶発的記憶の適応的利用はエピソード記憶の重要な一側面である。すでに国際誌に公刊した本研究は(Takagi et al. 2016)、editor推薦によりプレス公開され、海外のwebpage等で広く紹介された。2)同様の実験をウマ、デグー、シリアンハムスターで実施した。ウマではネコ同様の傾向が示されたが、まだ個体数が少ない。その他の2種では、最初の探訪時の行動制御に問題があり、いずれもさらなる検討が必要である。「未来を想うこころ」に関する成果:1)透明あるいは不透明のカップに隠されたシールを見つける宝探しゲームを幼児に与えた。その後隣室から隠し部屋が覗けることを教えた。すると、6歳児は、カップが不透明の時、実験者が隠している様子を隣室からそっと覗き見することがわかった。つまり6歳児は将来の自身の知識に関する不確信度を認識し、あらかじめ準備的な情報希求をすることがわかった。2)2種の遅延時間の明示される遅延見本合わせ課題をフサオマキザルにおこなわせた。時おり提示される、表示遅延時間が正しくない試行を分析することから、サルは柔軟に記銘と保持の方略を変えることがわかった。これも将来を見据えた行動である。
2: おおむね順調に進展している
全体として研究は着実に進んでおり、その成果の一部はすでに国際誌に公刊されている。特にネコを対象とした偶発的記憶(Takagi et al. in press)の研究は、論文の電子公開の直後に大きな注目を浴び、国内外の新聞やインターネット記事により広く紹介された。これ以外の研究は現在論文にまとめているところであるが、いずれも「過去と未来を想うこころ」の萌芽が幼児や動物に備わっていることを示す大きな成果であり、研究は順調に進んでいる。ただ、同時におこなっていたハトの展望的記憶に関する研究は、担当する研究協力者の妊娠・出産・育児があったため、進んでいない。29年度にはこれを進展させる必要がある。一部計画通りに進めることができなかった研究があるが、全体としてはおおむね順調に研究が進展していると判断する。
順調に研究は進展しており、すでに注目すべき成果も複数手に入れることができたので、大きな計画の変更は予定しない。これまで通り、「過去を想うこころ」と「未来を想うこころ」の2つの問いに関する行動的研究を継続する。前者の問いの検討では、偶発的記憶の想起に関する実験について、齧歯類における方法の適正化をおこなうとともに、種を多様化して継続する。鳥類(ニワトリ、ハト、オカメインコ)においても同様の検討を試みる。またこの手法を発展させ、「いつ」「どこで」「何が」を全て具えた偶発的記憶の利用可能性を調べる。イヌと幼児を対象に、時間経過に伴って価値の変化する報酬や自動的に開閉するフィーダー等を利用することで、これを実現したい。計画班の平田博士との共同研究により、チンパンジーとボノボも基本的に同じ課題でテストする。後者の問いの検討では、将来に向けた情報取得の準備行動の分析を、フサオマキザルで開始したので、これを進展させる。具体的には、遅延時間を明示する遅延見本合わせ課題の中に、比較刺激の選択前に見本刺激を再提示することができるオプションを設け、将来予想される課題の難度に応じて、あらかじめ適応的に選択しておけるか否かを分析する。また、公募班の梅田博士と共同で、担当者の妊娠出産のため28年度には進められなかった展望的記憶に関する検討を再開する。具体的には、速やかな完了を要求される付加課題が定期的に出現することが、実行中の別の弁別課題の遂行率や正答率、反応時間等に影響を及ぼすか否かを吟味することである。ハトを用いたこの課題には、まだ改良の余地が残されており、29年度には課題を微修正し、最適化したい。その後に、オカメインコ、フサオマキザル等にも拡張する計画である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 11件、 謝辞記載あり 13件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
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