本研究は「継時選択課題と採餌選択課題におけるヒトの時間価値割引」「視覚探索における時間割引の効果」の2課題に関して研究を推進した。 「継時選択課題と採餌選択課題におけるヒトの時間価値割引」:サルを用いた先行研究を基に、報酬とそれを得るまでの時間を表した視覚刺激を用いて、制限時間内に可能な限り多くの報酬を得るよう選択する課題を施行した。継時選択課題では、2種類の報酬と獲得時間からどちらかを選択する場合、時間差が大きくなるにつれ少報酬短時間の選択肢が選ばれた。採餌選択課題では、ごく短時間で報酬を得られるがその都度減額される選択肢と長時間を要するが減額分を初期化できる選択肢が用意され、初期化までの時間が長くなるにつれ、減額される報酬の選択回数が増加した。先行研究のモデルを用いて解析したところ、ヒトにおいてもサルと同様に継時選択課題では頑健に見られる時間割引の効果が採餌選択課題では大幅に減少することが観測された。 「視覚探索における時間割引の効果」:眼球運動を伴い、複数標的が存在する日常的な採餌的視覚探索における時間割引の効果を検討した。キャリブレーション課題で、2種類のコントラストの標的刺激の平均探索時間を測定したのち、本課題では、各標的刺激の探索時間当たりの期待値が等しくなるように点数を設定し、2種類の標的刺激・妨害刺激が混在する画面を用いて視覚探索課題を行った。被験者の標的選択行動と探索時の眼球運動を解析した結果、選択行動は、期待値が等しいことを明示的に教示した時にのみ時間割引に対応する低コントラスト標的の選好が生じることがわかった。また、眼球運動データは教示の有無にかかわらず時間割引を示す選好が生じないことが分かった。時間割引と報酬の明示的な意識化の関係、また眼球運動と選択反応は時間割引に関して乖離があることが示唆された。
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