これまでの研究で、我々は、確率微分方程式で表される神経細胞モデルに、時間変化するパルス列入力が入るときの統計的大域挙動を記述する線形作用素を構築した。この線形作用素は有限次元の行列で近似されることが理論的に示されるが、線形作用素の単なる離散近似では近似行列の要素数が多くなりすぎ、与えられたモデルの統計的大域挙動を解析するのが困難となる。本研究では、我々が提案した線形作用素の積分核が、良く用いられるパラメータの範囲でスパース性を持つことに着目し、線形作用素をある基底で展開し、この困難を緩和することにした。構築した線形作用素は確率的神経細胞モデルのパラメータや入力パラメータに依存し、そのスペクトル特性が変わる。入力は時間変化するため、線形作用素を縮約する問題は画像圧縮とほぼ同じ問題となる。したがって、パラメータごとに基底を用意するのではなく、同じ基底を用い変換した方が応用上適している。そこで離散コサイン変換(DCT-II)のFFT の部分にsparse FFT を用い、線形作用素を少ない要素数の行列で近似することを試みた。sparse FFT には大きく分けて確率的sparse FFT と決定論的sparse FFT の2つのアプローチがある。ここでは決定論的sparse FFT を用いた。これによりスパースなフーリエ係数を決定論的に計算可能となり、FFT を用いたDCT-II を用いるときより、sparse FFT を用いたDCT-IIの方が効率的に線形作用素を縮約できることを示した。
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