研究実績の概要 |
表面に束縛された二次元電子は,ステップや不純物などで散乱され, 干渉することによって,電子定在波を形成する.この現象は走査トンネル顕微法・走査トンネル分光法(STM/STS) 用いて,貴金属の(111)表面において観察される.最近,その適応範囲が広がり,非従来型超伝導体などにおいて,フェルミ面,バンド分散,超伝導ギャップの対称性などの性質を調べるために用いられており,(衣を着た電子,準粒子による)準粒子干渉(QPI)計測と呼ばれている.STMは,原子スケールで局所的な観察を得意とする手法であるが,この QPI計測は,定在波によって空間的におこる電子状態の変調から,マクロな情報を引き出すという手法であり,角度分解光電子分光と相補的な測定手法であると考えられている.しかし,その有効性の反面,長大な計測時間がその普及を妨げている.そこで我々はこのQPI計測の高速化,高分解能化を目指した研究を行っている.
平成28年度は,これまで我々が実測データからデータを間引いて行った数値実験によって明らかにした,高速化・高解像度化の可能性を,実計測を行うことで実証することを目的とした.まず,ランダムSTS計測のプログラムの考案と,作成を行い,ランダム計測を金(111)表面の電子定在波に対して行った.計測は問題なく行われ,その解析の結果,計測の高速化とエネルギー分散の高解像度化が可能であることが示された.
また, 実測データからデータを間引いて行った数値実験によって明らかにした高速化・高精度化の可能性をまとめ,論文として出版した.論文のプレスリリースを行い,その後幾つかの国内のシンポジウムにおいて,招待講演の依頼を受けており,その注目度の高さが伺える.
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