研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
16H01535
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
安藤 康伸 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター, 研究員 (00715039)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオン拡散 / 化学反応 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
1. スペクトル関数のスパースモデリング 物性物理学において“スペクトル”は、X線九州スペクトロスコピーやSTSなどの各種分光測定や電気伝導スペクトル、量子の状態密度スペクトルなど、計算・計測双方にとって非常に重要なデータフォーマットである。しかし計算・測定によってスペクトルを計算することができても、求めるスペクトル形状を持つ対象を予測するような逆問題を解くことは困難であり、特に物理的に解釈可能なピーク以外のスペクトル形状を制御する重要因子の同定は大きな課題であった。我々はあるエネルギー近傍におけるスペクトルの値は、変数に対して類似した依存関係を持つというだろう、という予測から、スペクトルデータセットの各エネルギー点全てに対してLASSOによる線形モデリングを実施した。その結果、ピークの裾部分の広いエネルギー領域で共通の変数が高い寄与率を示すことを見出した。この成果によりこれまでモデリング困難であった裾領域に光をあてることができると期待される。本研究は東京工業大学 小渕 助教, 樺島教授との共同研究として実施された。
2. 確率過程を用いたイオン拡散ネットワークの統計解析 アモルファス構造中から抽出したイオン拡散ネットワークに対して、イオン定常分布に関する温度依存性解析に着手した。確率過程で用いる遷移行列を、アモルファス中のイオン拡散ネットワーク上の活性化エネルギーを元に定義し、その定常解を求めた。その結果、温度に依存して定常状態空間が狭くなり高温では定常状態ベクトルが1次元にまで落ちることがわかった。これは、アモルファス構造自由度から抽出したネットワークの主要占有サイトが温度に依存して変化することを示しており、拡散係数の温度依存性を説明する鍵となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題であった「アモルファス中でのイオン拡散ネットワーク解析」について、ネットワーク内の遷移過程における定常状態を解析することでネットワーク内の重要パスを同定できる見通しが立ち、ネットワーク構造とアモルファス原子構造の相関解析によるアモルファス構造の特徴抽出へつながる成果が得られている。また、過去の研究成果から創発されたスペクトル関数のスパースモデリングに関する研究は、予期しない重要な成果を上げることができた。その結果、2017年度に向けた方策としてスペクトル解析の要素を新たに導入することができた。以上の事柄から、達成度は概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
1. イオン拡散ネットワークの定常パスを与える構造因子の抽出 2016年度の成果として、イオン拡散ネットワークの定常状態を温度ごとに解析する手法を開発した。2017年度はこの成果をさらに発展させ、温度変化による定常パスの変化を計算する。それにより、占有率が大きく変動するサイトを同定し、各サイト周辺のアモルファス原子構造の特徴を明らかにする。この結果から、拡散ネットワークと構造の相関関係を抽出する手法を確立する。
2. 状態密度を用いた反応活性エネルギーの予測 2016年度の成果によって得られたスペクトル解析の解析ノウハウを利用して、当初の計画にあったスパースな反応座標設計ではなく、電子状態密度スペクトルに注目した反応解析を試みる。特に、NEB法によって得られた化学反応の活性化エネルギーを電子状態遷移によってスパースモデリングし、反応に寄与するエネルギー領域及び反応座標中の重要領域を特定する。本研究を通して反応過程と活性化エネルギーの関係性を解析し、従来とは異なる物質設計のための手法を開発する。
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