研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
16H01541
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
宮脇 陽一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (80373372)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 認知科学 / スパースモデリング / 脳機能計測 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本年度はシミュレーションによる脳磁場信号からの神経電流分布推定精度の定量評価を注視として実施し、加えて情報拡散現象の定量化を行うことを目指した。この目標達成のため、以下の項目を順次実施した。 (1) 人工MEG 信号の合成(順問題):大脳皮質形状をポリゴンモデルで近似し、その上に神経電流源を配置し、これらが頭皮上の磁気センサの位置に生成する磁場を電磁気学的に計算した。神経電流源は、物体画像観察時に活動する代表的な脳部位である低次視覚野、腹側高次視覚野のいずれかに時間差を加えて置いた。これらの脳部位は、標準脳データベースの座標値にもとづき設定した。実験条件差異に対応する脳活動変化を表すため、2つの異なる神経電流源パターンを作成した。 (2) 大脳皮質上神経電流分布の推定(逆問題):生成した人工MEG信号から、大脳皮質上での神経電流分布を推定した。標準的な電流源推定法であるL2ノルム最小化、L1ノルム最小化、ビームフォーマと、fMRI 実験で定義された視覚野の位置情報を組み込むことが可能な階層ベイズ法を用いた。 (3)精度評価:上記の方法で推定した大脳皮質上神経電流分布の推定精度を、信号強度、神経電流分布の相関、神経電流分布の判別分析によって評価した。 (4)情報拡散の定量化:特定脳部位にしか仮定してない脳活動差異が、別の脳部位でも生じてしまう情報拡散現象がおきる空間範囲を定量化した。関心領域単位での評価に加え、サーチライト法を併用することで、情報拡散の空間範囲を可視化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初目的として、(1) 人工MEG 信号の合成(順問題)、(2) 大脳皮質上神経電流分布の推定(逆問題)、(3)精度評価、(4)情報拡散の定量化をの4つの具体的課題を挙げた。これら全ての項目について取り組むことができ、いずれにおいても肯定的な進捗が得られている。これらの研究成果をまとめた論文を現在投稿中であるので、「(2)おおむね順調に進展している」の評価が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに開発ならびに評価した手法を用いて、実際に計測したヒトMEG信号を解析する。この目標達成のため、以下の項目を順次実施する。 (1)自然画像観察時のヒトMEG信号計測実験:これまでの予備実験では、物体画像カテゴリが階層的に整理されたImageNetデータベースから選定した画像をそのまま提示していたが、解析の結果、背景部分を除去したほうが主物体に対する脳活動が強く生じることが確認されている。これを踏まえ、これまでの研究では、提示画像から背景部分を除去した画像に対する脳活動データの計測を進めてきた。しかしながら、この実験設定では一回の実験で提示可能な物体画像カテゴリ数が少なくなる可能性が想定される。この問題を解決するため、一試行の画像提示中に複数の背景除去済み物体画像を併置して同時に提示する方法などを用いて、複数の物体画像カテゴリに対応する脳活動データを効率よく計測できるかどうかを検討する。 (2)神経電流分布の推定:これまでに検討した情報拡散が最も少ない大脳皮質上神経電流分布推定手法を用いて、実測したMEG信号から大脳皮質上神経電流分布を推定する。 (3)神経電流分布に表現される画像情報の時間分解解析:推定した大脳皮質上神経電流分布を用い、提示した物体画像カテゴリを時々刻々予測する統計モデル(デコーダ)を機械学習する。物体画像カテゴリの情報が神経活動に表現された時刻は、デコーダの予測成績が有意になる時刻で定義する。これを、解析可能な全ての物体画像に対して実行することで、どのような物体画像カテゴリがいつ脳活動に表現されるのかを解明する。この際、情報拡散現象の影響を見積もるため、各脳部位からの相対的貢献度も同時評価する方法を適用する。
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