本年度は、昨年度までに開発・評価した手法を用いて、ヒトの実MEG信号を解析した。この目標に即し、以下の項目を順次実施した。 (1)MEG信号計測実験:提示可能な物体画像カテゴリ数を多くするため、複数の物体画像を併置して同時に提示した際の脳活動計測実験を進めることを当初計画したが、その前段階として、単一物体画像提示時のMEG信号解析の精緻化と強い再現性の確認が必要となったため、それらを優先して実施した。結果、被験者10名での現象の確認に成功し、研究成果の論文化に向けて大きく前進した。加えて、実MEG信号の信号源推定においても情報拡散が生じるかを確認するため、レチノトピー同定実験に標準的に用いる比較的単純な視覚刺激を用いたMEG信号計測実験を実施した。 (2)神経電流分布の推定:情報拡散が少ないMEG信号源推定方法は、脳活動パターンの分類精度が低いというトレードオフの関係にあることが分かった。よって、情報拡散はある程度生じるものの信号源位置の同定精度と脳活動パターンの分類精度において好成績を収めるfMRI信号による制約付きMEG信号源推定法を、実データの解析において中心的に用いることにした。 (3)神経電流分布に表現される画像情報の時間分解解析:以上の方法を用いて、推定したMEG信号源パターンから提示した物体画像カテゴリを時々刻々予測する統計モデル(デコーダ)を機械学習し、物体画像カテゴリの情報が神経活動に表現された時刻を様々な物体カテゴリに対して幅広く推定した。この手法と併用し、情報拡散の影響を低減させる可能性のあるsignal leakage reduction法の適用を試みた。また(1)のレチノトピー同定実験の視覚刺激に対するMEG信号源推定の時間分解解析の結果から、実MEG信号の解析においても情報拡散が生じている可能性が高いことを示唆することに成功した。
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