2017年度は宇宙の密度揺らぎの初期パワースペクトルの再構築を行った。宇宙マイクロ波背景輻射温度揺らぎ観測衛星WMAPのデータを用いた我々の先行研究において、初期揺らぎパワースペクトルの多重極ell=120付近に、べき型のスペクトルから有意に外れた特徴的な振動の存在が指摘されている。揺らぎの起源として有力な候補であるインフレーションを考えると、シンプルなインフレーションモデルではこのような振動現れないと予想されるため、このようなパワースペクトルの詳細な解析はインフレーションモデルへの制限として有益なものである。本研究では、新しく公開された観測衛星PLANCKのデータを用いて解析を行った。WMAPとは独立な観測衛星のデータを用いることで、人工的なノイズ起源である可能性を排除するとともに、WMAP衛星では得られなかった詳細な偏光揺らぎのデータを用いることで、独立な検証を行うことができる。
マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いた詳細な解析により、以下のことを明らかにした。 1.WMAPのデータ中に発見した特徴的な振動をPlanckのデータにおいても同じスケールに存在すること。 2.温度揺らぎのデータだけでなく、偏光揺らぎのデータにも同じスケールに同じ周期の振動があることを確認した。ただし、偏光揺らぎのデータは温度揺らぎのデータから示唆される振幅よりも小さな振幅を示唆している。 3.WMAPの解析時には、この振動を考慮することにより他の宇宙論パラメタの推定値が大きく変わることがあったが、PLANCKのデータではより小スケール側のデータで宇宙論パラメタが決定されているため、大きく推定値が変わることはないことが分かった。
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