研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
16H01552
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
赤井 一郎 熊本大学, パルスパワー科学研究所, 教授 (20212392)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | データ駆動科学 / マテリアルズインフォマティックス / ベイズ推定 / スパースモデリング / コヒーレントフォノン / 光物性 |
研究実績の概要 |
光誘起構造変化は光によって協調的な構造変化を引き起こす現象で、そのダイナミクス解明は光物性分野の主命題である。その中でコヒーレントフォノン(CP)計測法は、そのダイナミクスを振動モードの時系列変化として捉えることが可能である。 当該年度では、まず【課題1】であるCP信号のベイズ推定に取り組んだ。フーリエ変換やウェーブレット変換の既存解析法では、CP信号の減衰特性に由来する不確定性幅が振動モード周波数の高精度推定で大きな障害になるのに対し、ベイズ推定では減衰振動の物理モデル(因果律)を導入することにより、振動モードの推定精度が2桁以上改善し、振動初期位相、振動振幅の立上り・減衰時定数も高精度に推定できることを示した。 更に【課題2】である新規スパースモデリング(SpM)法の開発に取り組んだ。用いた方法は、非線形流体振動の時間・空間変動データのモード分解に用いられる動的モード分解(DMD: Dynamic Mode Decomposition)を、モード振幅のスパース性を取り入れたSpDMD (Sparsity-promoting DMD)である。CP信号では時間系列だけのデータを解析対象とするが、SpDMDの適用にあたり、コヒーレントフォノンが一定速度で試料内を伝播することを想定したデータマッピングを行って、SpDMDを適用した。そのSpDMDを実際の実験データに適用し、実験データ内に含まれる物質固有の2つの固有モードは元より、実験的アーティファクトであるベース信号の揺らぎや、時間原点付近のポンプレーザー由来のスパイク応答までも自動的に分解・抽出が出来ることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究ではコヒーレントフォノンの減衰振動モード分解解析において、以下のような革新をもたらした。 (1) 振動性波形のモード分解解析では、これまでフーリエ変換やウェーブレット変換が用いられてきた。しかしこれらの分解法は、準連続的な周波数を持った平面波やマザーウェーブレットを基底としてモード分解するため、不確定性原理由来の強い推定限界が問題である。本研究では、コヒーレントフォノン信号を説明する物理モデルを因果律として導入したベイズ推定を用いることで、その問題を突破し、振動周波数は元より、全ての物理パラメータを高精度に推定できることを示した。 (2) (1)のベイズ推定は、CP信号にどの様な減衰振動モードが含まれているかの先験的知識がある場合は極めて有効である。しかし実際の実験データでは、信号に含まれる物質固有の振動モード数が不明であることが多い。更に、実験データにはこれらの物質由来の信号以外に、実験的アーティファクトが重畳することが避けられず、それらの実験的アーティファクトは、フーリエ変換等で、本来のモードスペクトルを得る際に大きな障害となっている。本研究で取り組んだSpDMDは、それら諸問題を一気に解決することが可能である。SpDMDは、実験的アーティファクトも単純指数関数減衰応答や長周期振動成分として適切に抽出・分離し、少数(スパースな)の物質固有の減衰振動モードを分解することが可能である。またこれらの減衰振動モードの振動周波数、初期位相、減衰時定数も推定することが可能で、既存解析法で不可能な解析が可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は【課題1】、【課題2】で開発した解析法を様々なデータに適用し汎用化を進める。特にCP信号計測で、信号強度の測定分解能を向上させるため、高分解能デジタルオシロスコープを導入し、微弱信号の極限検出の可能性をデータ駆動科学を用いて検討する。解析するCP信号は、光機能性有機材料のソフト分子振動モード、GaAs超格子系のフォノン・プラズモンカップルドモード等を対象とする。 さらにこれらの研究と並行して【課題3】に取り組む。【課題2】のスパースモデリングでは、推定される物理パラメータの推定精度を評価することが困難である。よって、スパースモデリングで主要モードを分解し、それらを取り入れた物理モデルを元に【課題1】のベイズ推定に繋げ、全ての物性パラメータの推定精度までも評価できる方法論の構築に務める。
|