光誘起構造変化は光で協調的な構造変化を引き起こす現象で、そのダイナミクス解明は光物性分野の主命題である。その中でコヒーレントフォノン(CP)計測法は、そのダイナミクスを振動モードの時系列変化として捉えることが可能である。 当該年度では、初年度にCP信号解析で実績を上げたベイズ推定を様々な光誘起現象のスペクトル分解解析(ベイズ分光)に適用するとともに、仮想計測解析(VMA)にも取り組んだ。その結果、タイプII超格子半導体において、光誘起の高密度相である電子正孔液滴状態が安定化することを統計的確証とともに示した。VMAでは、CP信号のモード解析におけるノイズ耐性と、スペクトル分解における均一幅と不均一幅の競合と分離の可能性について明らかにした。 一方スパースモデリング(SpM)については、CP信号の解析において、モード振幅のスパース性を取り入れた動的モード分解(SpDMD: Sparsity-promoting Dynamic Mode Decomposition)を適用した。その結果、実験データにおいて、物質固有の2つの固有モードに加え実験的アーティファクトであるベース信号の揺らぎとポンプレーザー由来のスパイク応答までも自動的に分解・抽出が出来ることを示した。また、その様なCP信号を想定した人工データを対象にして、SpDMDで推定される振動モードパラメータの推定精度を評価した。その結果、CP信号の励振機構の同定で重要な振動初期位相が、高精度に推定できることを示した。 またSpDMDで用いたSpMは振動性の信号で有効に機能することから、放射光を用いて計測される広域X線吸収微細構造(EXAFS)の振動性波形の解析に適用させた。今後これらの実績に基づき、様々なCP信号の解析やEXAFS信号の解析にSpMを適用させ、データ駆動科学の発展に寄与する。
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