我々生体内の機能分子の主役は様々な種類のタンパク質である。そのため、薬はタンパク質に結合してその機能を調整することで働くものが多い。創薬には、タンパク質構造を解明して、薬との結合ポケットの形を決定することが重要なステップの一つである。近年、様々な向きの電顕像から構造決定する単粒子解析法が進歩し、一部のターゲットで原子分解能に到達した。しかし、分解能が低いことも多い。向きの偏りは大きな理由の一つである。ここでは、向きの偏りを、負染色法ではカーボン膜の電荷を調整することで改善し、疎な投影角度の問題はスパースモデリング(SpM)・ベイズ法を応用した画像処理法開発を進めた。負染色法を用い、構造未知なタンパク質の構造決定に関して、北大の前仲グループと共同し、免疫寛容の形成に重要な、HLA/MHCの特殊型(50kDaほど)の初めての構造決定に成功しJournal of Immunology誌に発表した。本研究をさらに進めることは、アレルギー・自己免疫疾患など様々な免疫系の疾患の克服に貢献すると思われる。また、巨大な複合体形成の細胞内観察のために、免疫電顕のための系開発として、院内感染菌の一部と神経初代培養細胞をラベルできる条件を開発した。また、さらなる高分解能に向けてクライオ電顕自体の開発としては、電子線検出で最高感度を有する電子線直接検出カメラを収差補正機Cs correctorと組み合わせインストールすることに成功した。また、DNA折り紙の足場中のイオンチャネルが作用薬と結合することにより、ダイナミックに構造変化する様子をAFMで撮影した。さらに、その構造変化を、画像情報処理によって可視化しAngewandte Chemie誌に発表した。今後は、本開発を基に更なる解析ソフト開発によって、決定される分解能の向上に努めたい。
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