研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
16H01565
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
高橋 努 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地震津波海域観測研究開発センター, 主任研究員 (90435842)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地震 / 地震波散乱 / 内部減衰 / マルコフ連鎖モンテカルロ |
研究実績の概要 |
本年度は,Reversible Jump Markov Chain Monte Carlo(以下,rjMCMC法)と呼ばれる手法を用いたランダム速度不均質構造の推定法の高度化を進め,南部琉球弧周辺の地震波形データへ適用し,詳細な地下構造を解明した.またrjMCMC法を用いて当初計画にはなかった新しい構造推定手法を構築し,本課題で当初から用いていた手法では解析が難しかった領域での散乱および内部減衰構造の推定を可能にした. 地下構造研究でrjMCMC法を用いることで未知数の数を可変にでき,観測データに対して最適な分解能での構造推定が期待される.本課題代表者は,地震波の散乱や減衰に着目した地下構造研究へ応用を進めていたが,課題開始時点では空間的に滑らかに分布する構造を安定して推定しにくいという問題があった.そこで計画では,未知数の数や観測データの空間分布に基づく拘束条件などを新たに導入し,未知数の変化に対する事後確率の変化を抑制する手法を検討していた.しかし研究を進めた結果,従来の構造推定などではほとんど用いられていなかった非常に弱い拘束条件だけを用いることで,十分に安定した解が得られることが分かった.この手法と人工データを用いた検証,南部琉球弧へ適用結果について現在投稿論文として纏めている. また,地震波の後続波群を用いて散乱と内部減衰を分離推定する既往研究の手法について,rjMCMC法を用いて未知数の数を可変として一般化し,より正確な構造推定を可能とした.これを東北沖アウターライズへ適用し,東北沖地震後に発生した正断層型の大地震(M7.6)などの震源域付近やプチスポットと呼ばれる火山活動域で散乱が強いことなどを明らかにした.本課題で当初から用いていた手法は沈み込み帯でしか適用できなかったが,この手法は浅発地震のみを用いるため,様々な地域での適用が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,平成28年度はrjMCMC法を用いて空間変化が滑らかな地下構造を安定して推定できるよう手法の高度化を進めることを目標としていた.研究を進めた結果,当初の見込みとは異なる定式化となったが,非常に安定した手法を構築することができた.また手法の高度化に伴い計算時間が増大したが,これは当初の計画に沿って本課題で導入した計算機と所属機関の大型計算機を併用して解決している.この手法を減衰構造推定にも適用する計画であったが平成28年度中には実施できず,この点は計画から若干の遅れとなっている.一方,rjMCMC法を用いて新しい構造推定手法を構築し,沈み込み帯以外の幅広い地域で地震波の散乱や減衰に着目した構造研究を行うことを可能とした.この手法の構築を進める中で,既往研究の手法における問題点を明らかにして解決しており,既往研究で求められた地下構造の見直しなどにもつながる重要な成果と考えている.以上の成果から,本課題は順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の平成28年度に本課題で基盤となる手法の高度化はほぼ完了した.研究計画の最終年度である平成29年度は,平成28年度に得られた成果を論文として纏めるとともに,構築した手法を伊豆小笠原弧や西南日本など他の領域への適用を進め,学会発表や論文投稿を進める.また減衰構造推定についても,平成28年度の知見に基づいた手法の高度化と人工データによる検証を年度前半に終え,その手法を西南日本や南西諸島などの実データへ適用する.また平成28年度に新たに開発した構造研究の手法については,東北沖アウターライズ地域で行われた繰り返し観測への適用を中心に進め,散乱や減衰構造の時空間変化を明らかにする.この手法については学会発表などの機会に国内外の研究者と様々な地域での応用について議論を進めており,その交流や他地域での手法の適用結果に基づいて手法の高度化も検討する.
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