公募研究
癌抑制遺伝子p53はヒト癌の約半数で変異が認められ発ガン過程において最も重要な遺伝子です。殆どの癌で転写因子としてのp53の機能が失活することから、p53変異細胞の特性を明らかにすることで、癌細胞が共通して持つ特徴、がんのアキレス腱を知ることが可能となる。本研究によって、p53変異細胞の特性を明らかとすることによって、癌細胞に普遍的に効果を示す治療法の開発を最終的な目標である。我々はこれまでp53によって発現誘導される遺伝子群の解析を継続して実施し、p53を介した癌化抑制機構の解明を進めてきた。今回マウス24臓器における網羅的遺伝子解析の結果、p53によって5000以上の遺伝子が制御されることを明らかとした。さらにp53欠損マウスに生じた腫瘍の全エクソン、RNAシークエンス解析、ゲノム編集技術によるp53活性型マウスの作成と遺伝子発現解析、CRISPR/CAS9ライブラリーを用いた合成致死遺伝子のスクリーニング及びヒトがん組織、細胞株の発現情報データなどの統合的解析を現在実施している。これらの研究によって、p53を介したアミノ酸制御、腸内細菌叢制御、胃組織の上皮化と発がん抑制を明らかとした。またこれまでに40以上のp53ノックアウトマウスに発生した腫瘍の組織学的な評価を終了し、WES/RNAの準備を終了した。さらにCRISPR/CAS9によるgRNAライブラリースクリーニングによるp53と合成致死に働く経路の解析やマイクロバイオーム解析を実施している。これらの研究によって、p53による遺伝子制御機構の全貌の解明を進めている。
2: おおむね順調に進展している
1)マウス24臓器、280検体のRNA seqにて5000以上の遺伝子がp53によって制御されることを明らかとした。また臓器毎の応答性の違いにp53mRNAの発現が相関すること、また胃組織においてp53がケラチンを誘導することで、放射線照射に対する防御機能を示すことを明らかとした。2)新規p53下流遺伝子として、ASS1、Epn3を同定した。p53がASS1の発現制御を介してアミノ酸代謝を制御すること、またアルギニン代謝が放射線照射応答やAkt1のリン酸化制御に重要であることを明らかとした。またEPN3はアポトーシス誘導を制御することで胃組織におけるがん抑制遺伝子として機能する事が明らかとなった。3)p53ノックアウトマウスに発生した40以上の腫瘍組織を収集し、腫瘍含有率を含めた組織学的な評価を実施した。解析対象組織を選択し、RNA DNAの抽出を実施した。4)MDM2のp53結合配列にCRISPR/CAS9システムで変異を導入したマウスを作成し、マウス個体を用いて、各臓器でのp53及びMDM2の発現レベルを検討した。その結果、MDM2の発現低下及びp53の活性化が確認された。5) Hct116 p53+/+, p53-/-細胞を用いて、20000遺伝子に対して各5ヶ所のgRNA をもつCRISPR/CAS9ライブラリーを用いたスクリーニングを実施し、p53欠損細胞特異的に細胞増殖を抑制する経路の探索を行い、p53と合成致死に働くと考えられる遺伝子Xを同定した。6) p53+/+, p53-/-マウスを用いて、腸内細菌叢に与える影響を検討した。その結果、p53-/-マウスにて、放射線照射に対する感受性の亢進と重症の消化管症候群を示すことが明らかとなった。
平成29年度は、下記の1-5を実施する。1) マウス24臓器のRNA seqにて同定されたp53制御遺伝子群ついて、発がんに対する機能解析を実施する。2) p53ノックアウトマウスに発生した既に収集済みの40以上の腫瘍組織より抽出したRNA,DNAを用いて、WES、RNA seqを実施する。P53と協調的に発がん促進に働く経路の同定を目指す。3) MDM2Δp53BS-/Δp53BS-マウスを用いて、各臓器でのp53、MDM2及びp53下流遺伝子の発現レベルを検討する。また発がんモデルなどを用いて、老化や発がんに関する表現系の解析をすすめる。4) CRISPR/CAS9ライブラリーを用いたスクリーニングにて同定された分子について、別細胞やsiRNA、阻害剤での検討を実施する。5) p53+/+, p53-/-マウスを用いて、腸内細菌叢に与える影響を検討する。これらの解析によって、p53による制御機構のさらなる解明を目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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