公募研究
本年度は、APC遺伝子の体細胞モザイク変異をもつ同一大腸腺腫症患者の5つの腺腫について、全ゲノム解析を行った。その結果、エクソン及びその周辺に、それぞれの腺腫で41、76、46、25、15か所の体細胞変異を認めた。これらの体細胞変異のうち、APC遺伝子の変異は4症例に認められた。また、その他7種類の遺伝子について、同一遺伝子内の変異が複数の腫瘍で発見された。これらの変異は、腫瘍発生前に存在していたのか、あるいはAPCの体細胞変異によるセカンドヒットにより獲得された腫瘍関連変異なのかを明らかにしたい。そこで現在、これらの遺伝子の変異についての確認、およびその変異頻度解析を行っている。さらに我々は、DNAポリメラーゼ遺伝子の変異によっておこる、DNAポリメラーゼ校正関連ポリポーシス(PPAP)患者の腫瘍の解析も開始した。この疾患は、家系内には大腸がんを中心に多数の腫瘍が多発する。本疾患が疑われた患者さんの血液の全ゲノム解析を行い、POLE1遺伝子に生殖細胞系列変異を同定した。そこでこの患者の2つの腫瘍(いずれも腺がん)について、全ゲノム解析を行った。その結果、一つの腫瘍には約93万か所の体細胞変異が、もう一つの腫瘍には約2万7千か所の体細胞変異が認められた。前者の腫瘍には、ミスマッチ修復機構に関連する遺伝子MLH1のプロモーターにメチル化が認めれた。したがって、DNAポリメラーゼ遺伝子産物の活性低下が体細胞変異の蓄積に貢献するとともに、何らかの原因でMLH1のプロモーターのメチル化が加わったものと考えられた。また虫垂由来の腹膜偽粘液腫(PMP)について、腫瘍の遺伝子変化および遺伝子発現プロファイルの解析を開始した。これら異なる発生機序が推測される腫瘍の遺伝子解析から、様々な粘膜維持機構の破たんメカニズムを明らかにする予定である。
2: おおむね順調に進展している
大腸腺腫の遺伝子解析について、まず1例の患者に発生した複数の腫瘍の全ゲノム解析が終了し、recurrentな体細胞変異が見つかった。この中で、APC遺伝子の変異が含まれていたことは、家族性大腸腺腫症における腫瘍発生のメカニズムからも予想された結果であり、全ゲノム解析が適切に行われたことを支持する結果である。その他のrecurrentな変異が体細胞モザイク変異と関連するものなのか、関連しない変異で腫瘍化の前に存在していたものか、あるいはAPC遺伝子のtwo hitにより腫瘍化した後に起こった変異なのか、変異を確認すると同時にその頻度を調べ検討していく予定である。また最近、新たな遺伝性腫瘍として疾患概念が定義されたDNAポリメラーゼ校正関連ポリポーシス(PPAP)の原因遺伝子POLE1に生殖細胞系列の変異を持つ患者を発見し、その腫瘍の解析にも着手した。さらに、通常の腺腫から発生した腫瘍とは異なり、多量の粘液を腹腔内に分泌する腫瘍、腹膜偽粘液腫(PMP)の病態解明にも取り組んでいる。
昨年度の大腸腺腫症患者の解析で認められたrecurrentな体細胞変異について、変異の確認をするとともに、その変異の発生時期を変異頻度から推定する。さらにAPC遺伝子に生殖細胞系列変異を持つ他の大腸腺腫症症例も検討し、これらの患者の腫瘍発生メカニズムを詳細に解明する予定である。さらにPOLE1遺伝子に生殖細胞系列変異をもつPPAP患者の、2つの腫瘍の遺伝子変異の解析から、共通した遺伝子変異パターン、シグナル伝達の変化を検討する。さらにメチル化解析を行い、変異とメチル化の関係を検討する予定である。腹膜偽粘液腫の解析からは、腹膜偽粘液腫細胞が持つ共通の変異や、共通の遺伝子発現パターンの変化を明らかにする。さらにそれらの変異が、どのような腫瘍細胞の形質とかかわるのかを解析する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件)
Cancer Science
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/cas.13174
Scientific Report
巻: 6 ページ: 26011
10.1038/srep26011
BMC Medical Genetics
巻: 17 ページ: 94
10.1186/s12881-016-0356-5
Cancer Research
巻: 76 ページ: 7012-7023
10.1158/0008-5472.CAN-16-1371
Clinical Cancer Research
巻: 22 ページ: 4890-4900
10.1158/1078-0432.CCR-15-2823