公募研究
正常組織ががん化する過程で、がん遺伝子やがん抑制遺伝子に徐々に変異が蓄積する多段階発がんモデルが提唱されている。その最終段階ではがん抑制遺伝子p53の機能が低下することでがんの悪性形質が誘導されるが、その詳細なメカニズムは解明されていない。本プロジェクトで私は、多段階発がん過程でp53の機能不全を引き金に活性化する新規遺伝子p70を同定した。そしてp70が低酸素誘導性転写因子HIF-1の活性化を介して、がん細胞の糖代謝経路をリプログラミングし、さらに転移・浸潤能を亢進することを見出した。ここで機能する遺伝子ネットワークを解明するべく、p70、p53、HIF-1の3者を遺伝子工学的に操作した細胞を準備し、そこからトランスクリプトーム、およびプロテオーム解析用の生体試料を抽出する系を確立した。次年度以降に各種オミクス解析を実施する準備を整えた。p70によるHIF-1の活性化がp53によって抑制されるメカニズムを解明することを目指し、分子細胞生物学的実験を実施した。その結果、p70がHIF-1の主要制御サブユニットHIF-1αと複合体を形成して活性化する機序が明らかになった。また3者が相互作用する病態生理学的な意義として、p70-HIF-1経路の活性化によってがんの浸潤能が亢進すること、またこれがp53によって抑制されることを明らかにした。最後に、京大病院呼吸器外科で根治的手術を受けた肺がん患者250例から腫瘍サンプルを入手し、p70の発現レベルと肺がん患者の生命予後との関係を解析した。その結果、腫瘍内のp70発現レベルが高いほど、患者の生命予後が不良であることが明らかになった。
3: やや遅れている
オミクス解析用のサンプルを調整することには成功したものの、機器の故障からオミクス解析自体を実施できていない。逆に臨床検体を対象にした研究は当初の予定を大幅に上回って完了させることが出来た。総じて若干予定が遅れていると判断した。
大腸がんの多段階発がんにおけるがん抑制遺伝子と低酸素応答機構のクロストークに着目し、p53・p70・HIF-1を遺伝子工学的に操作した細胞、及び遺伝子改変マウス(発がんモデルマウスを含む)を対象にオミクス解析を展開する。もって、正常組織と腫瘍組織の差異を生み出す遺伝子ネットワークを解明し、創薬につながる礎を築く。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 10件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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