研究実績の概要 |
進行胃癌の治療後再発は、肉眼的に癌を確認できない状態で化学療法を行ったのちに見られることから、我々は抗癌剤存在下で増殖可能な癌細胞を再発の起点と考え、その最小単位(抗癌剤寛容性コロニー、DTC)を対象とした研究を行った。また、DTCを形成するために必要な抗癌剤反応性シグナル伝達経路を同定するため、タンパクの時系列データの集積を行っている。 再発胃癌の治療に用いられるシスプラチン(CIS)存在でDTCを採取し、そのプロファイリングおよび特異的抑制効果のある化合物のスクリーニングを行ったところ、CIS存在下で出現するDTCは、キノコ毒に含まれRNA polymerase II阻害活性を持つα-Amanitinにより転写複合体を形成するTAF15を標的として効果的に抑制され、その肝・腎毒性はCIS同時投与により予防できる可能性も示唆された(Kume et al, Sci Rep, 2016)。さらに、胃癌術後補助化学療法での抗腫瘍活性物質である5-FU抵抗細胞株を用いた実験では、5-FU投与により、PI3Kのリン酸化が促進された細胞亜集団がその抵抗機序の中心であることを明らかにした。この結果から5-FUとPI3Kリン酸化阻害剤GDC-0941を同時投与すると、マウスを用いたヒト胃癌細胞の異種同所同組織再発モデルに対して効率的に再発を抑制することができた(Ishida et al, Sci Rep, in press)。 抗癌剤投与後タンパク時系列データ解析では、現在まで細胞(8種類)×薬剤(4種類)×濃度(3段階)×時系列(5点)×反復実験(4回)=1,920サンプルを回収した。今後これらのサンプルを逆相タンパクアレイ(RPPA)に集積し、300種類以上の抗体を含むライブラリーから免疫染色を行う予定である。画像解析および統計解析についても概ねシミュレーションは完了した。
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