昨年度に引き続き、主に肺腺癌細胞株モデル系について、ロングリードシークエンス技術を用いたがん細胞のゲノム多型および変異のフェージング解析を行った。ナノポアシークエンサーMinIONから得られたロングリードデータだけでなく、合成ロングリードデータも組み合わせてゲノムワイドな領域に対して解析を実施した。平成29年度は、特に従来のがんゲノム解析ではあまり解析されてこなかったプロモーターやエンハンサーといった転写制御領域の変異に着目し、転写領域における多型とのフェーズ情報を取得した。さらに、すでに取得済みである同一細胞株のヒストン修飾ChIP-seqおよびRNA-seqデータを重ね合わせ、各アリルの転写状態についても同時に解析することで、がんゲノムにおける転写制御異常の一端をシングルアリルレベルで明らかにした。その結果、肺腺癌培養細胞23株より、遺伝子発現・転写制御に影響を及ぼしうる137個のゲノム変異を同定した。それら変異の一部は転写因子結合部位に位置しており、転写因子の結合を変化させることで実際の転写制御に影響していると予測された。 ナノポアシークエンサーを用いた臨床検体の解析については、がん関連遺伝子のPCR産物から変異検出を行うことができたが、リキッドバイオプシーサンプルなどを対象とした高感度な変異検出については十分な解析ができておらず、さらなる検討が必要である。 本研究で得られたシークエンスデータはDDBJおよびNBDCのデータベースに登録しており、解析結果はデータベースDBTSS/DBKEROに収載している。
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