本研究では、アリューシャン列島南岸で形成され、北太平洋西部亜寒域を南西に伝播、同海域の水平、鉛直混合に重要な役割を果たすと考えられているアリューシャン渦に注目し、同渦が北太平洋西部亜寒域における生産を左右する栄養物質の循環および低次生態系への影響を理解することを目的として研究を実施した。 今年度は、2016年度おしょろ丸60日航海において実施した乱流観測および鉄濃度観測によって得られたデータについて詳しい検討を行った。本観測は、海洋中規模渦内・縁辺付近では、乱流エネルギー散逸率、鉛直拡散係数が大きく、その結果、渦内・縁辺付近に高い生物生産をもたらしているのではないかとの予測に基づいて実施したものである。しかし、解析の結果、その予測とは異なる結果が得られた。まず、乱流データ解析の結果、渦内外で鉛直拡散係数に顕著な違いはなく、一般的な外洋域の値程度であることが示された。鉄濃度に関しても、渦内外で顕著な差は観測されず、一般的な北太平洋亜寒帯外洋域の値に近いものとなっていた。これらの結果は、クロロフィル蛍光度の分布、すなわち渦内外でクロロフィル蛍光度に顕著な差は観測されなかったという観測結果と整合的であった。以上の結果から、2016年度おしょろ丸60日航海において観測した中規模高気圧性渦内・外縁部付近では、鉛直混合、さらにそれに伴う下層から有光層への鉄供給が周辺海域と同様に弱く、結果として周辺海域と比べて高いクロロフィル蛍光度が観測されなかったと考えられる。 本研究ではさらに、北太平洋西部亜寒帯全域における中規模渦の性質も検討した。その結果、アリューシャン渦形成域では、その周辺海域と比べて特に多くの渦が形成されるわけではないことが示され、当該海域では、周辺海域よりも大きくて強い渦が形成され、寿命も長いという特徴を持つことで、西部亜寒帯外洋域に大きな影響を持つことが示唆された。
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