公募研究
本研究では、オホーツク海をはじめとする北太平洋西部亜寒帯海域の「豊かな海の恵み」を生み出す仕組みの解明を目的として、栄養物質循環の数値モデリングを実施した。具体的には、(1)強い混合域で大きな鉛直拡散係数を与えるという従来型パラメタリゼーションを用いたモデルによる数値実験(以下、西部亜寒帯物質循環モデル)、(2)潮汐モデルを海洋海氷結合モデルに直接結合し、鉛直混合を起潮力から計算して物質循環を駆動するという、これまでにない北高解像度太平洋物質循環シミュレーションの開発を進めた。西部亜寒帯物質循環モデルは、北西太平洋、オホーツク海、ベーリング海を0.5°で解像した物理モデルを基にして、リン-鉄サイクルを組み込んだものである。H28年度は季節変動実験を行った。亜寒帯域表層の栄養塩や鉄の混合層内における季節変動を概ね再現した。鉄濃度の収支解析を行った結果、親潮域の秋季の鉄濃度の上昇については、鉛直混合によるエントレインメントの寄与が最も大きく、観測結果と整合的である。一方、真冬における鉄濃度の上昇については、水平輸送による鉄フラックスの寄与が卓越していた。それには冬季のエクマン輸送が最も大きい寄与をもつ。地衡流も、エクマン輸送とほぼ同程度の影響を持っていた。冬季にサハリン沿岸や北海道沿岸で強化する沿岸捕捉波に伴う沿岸流の季節変動であることが示唆される。高解像度北太平洋物質循環シミュレーションはオホーツク海北部陸棚域を起点とする中層鉄循環を再現し、さらに親潮域を通して、移行領域への鉄の輸送過程を再現した。千島列島沿いの潮汐混合および移行領域での顕著な冬季の深い混合層形成を通して中層の鉄が表面に回帰し、植物プランクトンに利用される様子も確認された。これに、ベーリング海から東カムチャツカ海流を通して輸送された栄養塩が加わることで、高い生物生産性が維持されていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
西部亜寒帯物質循環モデルの季節変動実験は完了し、鉄の収支解析から、季節変動には海流による移流が重要であることが示された。現在は経年変動実験を進めている。これは、海洋表面の風応力、熱、淡水フラックスをERA-interimによって駆動するもので、期間は1979年‐2011年である。また、千島列島における潮汐混合は、18.6年の周期で20%強度を変動させている。観測との比較は、データの多いリン酸塩で行こととした。高解像度北太平洋物質循環モデルは、物理モデルとリン-鉄サイクルのモデルの結合を行い、現在再現性向上を目指しているところである。まず、亜寒帯循環の大部分は高栄養塩にも関わらず生物生産が比較的低い(High Nutrient Low Chlorophyll; HNLC)海域であることを再現した。また、モデルは、オホーツク海北西陸棚を起点としている中層鉄循環を再現した。濃度は観測値よりもやや低くはあるが、観測と対応する鉄分布を得た。一方で、オホーツク海表面の鉄濃度が高すぎる、というバイアスがあり、その改善を進めているところである。
西部亜寒帯物質循環モデルは、親潮域のリン酸塩濃度の経年変動を再現していることを大まかに確かめている。したがってH29年度は、リン酸塩の濃度に注目して実験結果の解析を進め、その経年変動メカニズムの解明を目指す。また、各々の強制力変動をON/OFFにした敏感度実験を行うことで、潮汐の変動を含め、それぞれの寄与を明らかにする。計画班と協力し、観測との比較を継続して進める。並行して、高解像度北太平洋物質循環モデルの開発を継続する。まず、表層・中層の鉄濃度分布の再現性を向上させるため、鉄モデルの改良を進める。とくに、オホーツク海表層の鉄の高濃度バイアスを改善し、季節変動する外力の元でコントロール実験の確立を目標とする。その上で、起潮力のON/OF実験を含む、強制力の変動実験を行う。計画班と協力して、鉄分布やリン酸塩分布について観測との比較を行うとともに、他のモデリングチームと協力して、モデルの高度化を進める。
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Journal of Physical Oceanography
巻: 46 ページ: 583-600
10.1175/JPO-D-14-0162.1
月刊海洋
巻: 48 ページ: 143-151
http://wwwoc.lowtem.hokudai.ac.jp/