研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
16H01586
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大木 淳之 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (70450252)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機ヨウ素 / 光化学反応 / ジヨードメタン / クロロヨードメタン |
研究実績の概要 |
海洋観測(北海道大学練習船おしょろ丸)海域:北西太平洋亜寒帯循環域、時期:2016年6-7月、観測項目:CTD観測システムによる海洋表面から水深300mまでの鉛直24層採水、波長別の光強度観測(研究協力者:平譯亨博士【北海道大学】)、乱流系による鉛直拡散係数(研究協力者:田中雄大博士【東京大学】)、分析項目(鉛直採水した海水試料):光分解性有機ヨウ素ガス(ジヨードメタン、クロロヨードメタン)をパージ&トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析法、栄養塩類をオートアナライザ(比色法) 観測結果 表層混合層内で光分解性有機ヨウ素ガス濃度が低濃度で比較的一定、混合層以深で濃度が急に増える鉛直プロファイルを示した。濃度プロファイルの濃度極大について、ジヨードメタン(可視光の青色波長より短い波長で分解)の極大深度よりも、クロロヨードメタン(UV-Aより短い波長で分解)の極大深度の方が10mほど深いことが捉えられた。 解析 波長別の光強度の鉛直プロファイルから、各深度におけるジヨードメタンの光分解速度定数、クロロヨードメタンの光分解速度定数を求めた。各深度の鉛直拡散係数、各深度の光分解有機ヨウ素ガスの濃度勾配から、両ガスの鉛直輸送量(単位時間あたり)を求めた。微生物による有機ヨウ素ガス発生について、正味の発生速度を仮定して、鉛直ボックスモデルを構築した。 解析結果 光分解性有機ヨウ素ガスの鉛直ボックスモデルを計算したところ、日中の数時間で表層混合層のジヨードメタンが消失する結果となった。実際の観測結果では、表層混合層でも一定濃度のジヨードメタンが存在しており、モデル結果と観測結果に大きな違いがあることが分かった。微生物による正味の生成量では説明できない量のジヨードメタンが表面付近で発生していることが強く示唆された。 考察 海洋表面付近でジヨードメタンが光化学的に生成されている仮説を提唱するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
海洋観測を実施して、亜寒帯循環域の夏場に、光分解性有機ヨウ素ガスのジヨードメタンとクロロヨードメタンの鉛直プロファイルを得ることができた。両化合物の濃度極大の深度に違いがあること、表層混合層で比較的低濃度であることを捉えることができた。有機ヨウ素ガスの鉛直プロファイルと同時に、光強度と鉛直拡散係数の鉛直プロファイルを得ることに成功した。これらの観測結果から、モデルを構築して、光分解有機ヨウ素ガスの鉛直プロファイルを計算したところ、観測結果と大きな違いがあることが明らかになった。光分解性有機ヨウ素ガスの生成過程について、従来考えられていなかった、海洋表面付近における光化学的な生成を強く示唆する結果を得た。この結果をもとに、光分解性有機ヨウ素ガスの光化学生成の仮説を提唱するに至った。今後は、この仮説を検証するとともに、光分解性有機ヨウ素ガスの鉛直プロファイルと海洋混合の関係を明らかにすることが期待される。したがって、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
光分解性有機ヨウ素ガスの光化学生成の仮説を提唱 海洋表面付近で、海水中の腐植様有機物に光があたると励起して電子を放出する。その電子が海水中のヨウ素酸イオンに受け渡され、ヨウ素分子になる。そのヨウ素分子が海水中の有機物と反応してジヨードメタンが発生する。 この仮説を検証するため、石英管に海水を流しながら、太陽光を一時的に照射する。石英管の下流を遮光して海水を回収し、光分解性有機ヨウ素ガスを測定する。流す海水に腐植様有機物(標準物質)とヨウ素酸の添加した(もしくは添加しない)実験区を設けて、比較する。 海洋表面付近での光分解性有機ヨウ素ガスの発生を考慮したモデルを構築して、有機ヨウ素ガスの鉛直プロファイルを再計算する。実際のプロファイルを再現できるように、モデルパラメタ(微生物による正味の生成と光生成速度)を調整する。各観測ステーションの光分解有機ヨウ素ガスの鉛直プロファイルと海洋混合の関係をケーススタディとする。有機ヨウ素ガスの鉛直プロファイルから、海洋混合の様子を推測する経験則を見出す。
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