H28年度に実施した海洋観測にて、北太平洋亜寒帯循環域で海洋表面から水深300mの海水を鉛直的に採取し光分解性を有する有機ガス濃度を測定した。さらに、分光放射照度と鉛直拡散係数の測定を行った。H29年度には、光分解性を有する有機ヨウ素ガス種(ジヨードメタンとクロロヨードメタン)の鉛直プロファイルを再現するモデル(光分解と光生成、鉛直輸送、微生物による正味の生成を考慮)を構築した。ジヨードメタンのモデル結果では、微生物による生成に対して、表層混合層内での光分解が卓越するため、混合層内の濃度がモデル開始から数時間内にゼロに収束してしまった。混合層内でのジヨードメタンの濃度を実測値に保つには、日中のみ、ジヨードメタンの光分解を補償するだけの未知の生成過程が存在しなくてはならない。つまり、ジヨードメタンが光分解すると同時に、その減少分を補うだけ光生成していることが示唆された。H29年度の研究では、ジヨードメタンの光生成過程を調べる実験も行ったが、その実験的証拠を得るには至らなかった。そこで、ジヨードメタンの濃度を保つメカニズムは不明のままとして、その濃度が定常状態に保たれていることを仮定し、クロロヨードメタンの鉛直分布モデルを構築した。クロロヨードメタンモデルにおいては、ジヨードメタンの光分解に起因するクロロヨードメタンの光生成の項を加えた(過去の知見を引用)。クロロヨードメタンの光生成項を加えないと、ジヨードメタンと同様に表層での光分解が卓越して表層水中の濃度が速やかにゼロに収束してしまったが、光生成項を加えると実際の濃度をよく再現するモデル結果が得られた。クロロヨードメタンの鉛直プロファイルは、光生成と光分解、鉛直混合により決まることが明らかとなった。これにより、クロロヨードメタンの濃度、光生成と光分解を得れば、鉛直混合を読み解く道筋をつけることができた。
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