研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
16H01587
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海洋物理 / 流体力学 / 海洋科学 / 混合 / 波 / 渦 |
研究実績の概要 |
海洋の生態系やそれにかかわる物質循環には、表層に近い海面混合層直下の鉛直混合が重要となる。本研究では、この海洋上層部で働く鉛直混合の素過程の一つである「渦と内部波の相互作用」に着目する。渦による流れは通常上層ほど強く、この相互作用は表層近くの鉛直混合を促進する。しかし、従来の研究は一部のパラメタ領域のみを対象としており、その範囲外については現実に頻繁に生じているものの定性的にも分かっていない。そこで本研究は、「渦と内部波の相互作用」を広いパラメタ領域で調べ、相互作用により混合が促進される場所の分布を見積もることを目的とする。 平成28年度は、上述の目的を達成するために先ず、1.非線形も含む幅広いパラメタ領域で数値実験を行い、2.線形ないし準線形のパラメタ領域で理論解を導出した。数値実験の結果から、無次元パラメタ epsilonが渦と内部波の相互作用およびそれによる混合の指標となることが示された。ここで、epsilonは無次元化した運動方程式における移流項(渦による内部波の移流および内部波による渦の移流)の係数として現れる無次元パラメタである。加えて、これまで研究されたことのないパラメタ領域において、内部波が渦の内部に捕捉される過程を新しく2つ発見した。捕捉された内部波のエネルギーは最終的に鉛直混合に使われることから、これは鉛直混合を引き起こす新たなメカニズムの発見と言える。導出した理論解により、新しく発見された捕捉過程の一つおよび、従来知られていた線形のパラメタ領域における内部波の応答を説明することができた。 以上の成果は国際シンポジウムで発表し、そのうちの一つでAota Masaaki Award 2017を受賞した。また、査読付国際誌への投稿準備中である。 (研究協力者:伊藤薫(北海道大学大学院環境科学院博士課程):研究全般)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画を全て達成し、新しい捕捉過程を発見するなど、想定以上の成果を得ている。その上、次年度の計画も一部前倒しで開始している。以上のことから(1)当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果に基づき、次年度は当初計画の通り、先ず、 3.無次元パラメタ epsilon の分布を見積もる。 epsilonは、渦に関するパラメタと内部波に関するパラメタからなるので、前者は高分解能海洋大循環モデルの出力を用いて見積もり、後者は内部波スペクトルの主要部から選ぶ。渦のパラメタの見積もりには、理想的には衛星海面高度のような観測データを用いるのが望ましいが、分解能が1/4°と不足するので、海洋大循環モデルの結果を用いる。 次に、4.数値実験により内部波自体の非線形性の効果についても検討する。 epsilonはその定義上、入射した内部波がその振幅にかかわらず、渦との相互作用により混合を引き起こすかどうかを表す。このことは、内部波の分布が不明な現状において、渦による混合を見積もる上では利点となる。とはいえ理論的には内部波の振幅も混合に影響しうるので、数値実験により、入射波の振幅に依存した非線形性の効果を検討する。 得られた成果については国内外の学会で発表する。また、成果を査読付国際誌に投稿すると共に、ウェブサイトまたは低温科学研究所の一般公開などを利用して広く紹介する。
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