研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
16H01590
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
長井 健容 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (90452044)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 黒潮源流 / 近慣性内部波 / 乱流混合 / 運動エネルギー散逸 / 栄養塩供給 |
研究実績の概要 |
本公募研究では、黒潮源流が陸棚縁辺海域において生成する近慣性内部波について、現場観測と数値実験を実施している。現場観測は、2016年11月に鹿児島大学のかごしま丸で、トカラ海峡周辺海域において実施した。観測では、自由落下曳航式乱流微細構造観測装置(Underway-VMP)を用いて、乱流を水平解像度1-2kmで300m深まで観測することに成功した。このような自由落下曳航式の乱流観測は、北米の一部のグループを除いて行っていない。また、本観測は、黒潮のような強い流れの中で行われたものであるため、極めて新規性が高い。観測の結果、黒潮源流域の亜表層では、近慣性内部波に伴う高鉛直波数の水平流の鉛直勾配(以後シアー)が帯状に等密度面に沿って観測されることがわかった。これらのシアーは、 水深方向に時計回りや反時計回りに回転することがわかり、内部波に伴う流れの影響であることを裏付ける。また、シアーが時計回り、及び反時計回りの回転を同程度していることから、観測した流れが上下に同程度伝播する近慣性内部波に強く影響を受けたものであることがわかった。自由落下曳航式に観測した、乱流運動エネルギー散逸率は、ADCPで観測されたシアーの帯状構造に関連した強乱流層を帯状に形成していることがわかった。この強乱流層内の乱流運動エネルギー散逸率は、平均的にO(10-7 Wkg-1)で、所によってはO(10-6 Wkg-1)に達し、これらの値は、一般的な外洋躍層のそれの100-1000倍に及ぶ。また、散逸率と浮力振動数から計算した渦拡散係数は、強乱流層内で平均的にO(10-4 m2s-1)と大きく、この値は塩分の変遷から見積もった過去の研究による黒潮源流域の渦拡散係数と同等の値となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は、現場観測の目標として、自由落下曳航式乱流微細構造観測装置試作機の試験を目指して、VMP250の導入と、それをUnderway-CTDウインチで曳航する試みを実施した。当初は、試験のみを予定していたが、2016年11月に実施したかごしま丸航海で、黒潮源流域での観測に用い、これまで明らかでなかった帯状の強乱流層の構造を、初めて明らかにすることができた。本測器を用いれば、船舶をゆっくりと進ませながら、水平解像度1-2kmで深さ300mまでの観測を実施可能であり、極めて画期的である。現在、これらの結果を論文としてまとめ、Scientific Reportsに投稿中である。 一方、数値実験は、現実的な黒潮源流域のモデルにM2外部潮汐を強制力として与える場合と、与えない場合の比較を実施し、M2内部潮汐から、パラメトリック不安定を通してどの程度の近慣性内部波が数値モデル中で発生するのかを現在検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、まず昨年度までに作成した数値実験をさらに進め、黒潮が流れていない状況、流れている状況下、M2半日外部潮汐のみ強制に与えた場合、とM2やK1日周外部潮汐も加えた場合の数値実験などを実施し、観測で得たような近慣性内部波の高鉛直波数のシアーが再現できるのか比較検討する。さらに、モデルで解像された鉛直シアーに伴う乱流運動エネルギー散逸率を既存のパラメタリゼーションで再現し、黒潮源流が内部波を介して運動エネルギーをどの程度散逸しているかや、モデル中の鉛直混合に伴う栄養塩供給を見積もる。 さらに、2017年11月には、再びかごしま丸航海に参加し、より長期の自由落下曳航式乱流観測を実施する。今回の観測では、昨年度の観測に用いた自由落下曳航式乱流観測装置試作機に、水温ー電気伝導度センサーを追加し実施するため、より詳細な密度構造と乱流の構造の観測を実施できる。加えて、これと並行して実施するCTD観測のCTDフレームに、現場顕微鏡動植物プランクトン撮影カメラを搭載し、黒潮源流域での動植物プランクトンの詳細な水平ー鉛直分布を明らかにできると考える。また、今年度は、6月後半に新青丸航海を実施し、黒潮源流域とは異なる下流域での黒潮の乱流について詳細な調査を、自由落下曳航式微細構造観測装置と、乱流計測フロートを用いて実施し、源流域との比較対象としてデータを解析し、源流域乱流構造と下流域の構造の違いとその成因について調査する。
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