研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
16H01593
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
石村 豊穂 茨城工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (80422012)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 耳石 / 安定同位体 / 微量分析 / 回遊履歴 / 炭酸塩 / 酸素同位体比 / 鉛直混合 / MICAL3 |
研究実績の概要 |
北太平洋における小型浮魚類(サバ・イワシ・サンマ等)の漁獲量には長周期的変動がみられ,稚仔魚期の生存率が漁獲量の周期的変動に大きく関係していると考えられている.長周期的変動の原因を解明する上で各魚種の過去の回遊経路の解明が重要である.回遊経路を知るために,これまで大型浮魚種(マグロ等)はデータ記録標識を魚に装着し回遊経路を記録する標識放流法が広く用いられてきた.しかしデータ記録標識を用いた回遊経路の復元方法は体長の小さな小型魚や稚仔魚などへの活用は実現されていない.一方,炭酸塩(CaCO3)で形成される魚類耳石の酸素安定同位体比(δ18O)は現場海水の酸素安定同位体比と経験水温で決定することから,様々な体サイズ・成長段階の魚種へも対応した生息環境の水温履歴推定方法として注目されている.近年の研究で,従来の分析技術の1/100のCaCO3量での高感度安定同位体組成定量法が確立し(Ishimura et al., 2004, 2008), 稚仔魚の微小な耳石にも適用できる微小領域の分析が可能になった.本年度は,(1)微小領域掘削機器の導入と,微小領域安定同位体比分析技術との融合による新たな分析技術のノウハウ蓄積とルーチン化を遂行し,(2)マサバ太平洋系群耳石のδ18Oを測定し,南北回遊に伴う顕著な水温ギャップが普遍的に確認できるか検証することを主目的とする.特に本年度は計画班A03-6班との連携の下,長期保管されていたマサバの稚仔魚期耳石を活用して,実際の高解像度酸素安定同位体比分析を行うための手法開発を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究試料には2013年~2015年に房総沖で採集された仔魚,及び2014年と2015年に太平洋北西部で採集された稚魚の耳石を用いた.仔魚耳石はマニキュアに包埋されていたため,アセトンでマニキュアを溶解後,抽出した耳石を再びアセトンで洗浄し,微量炭酸塩安定同位体比分析システム(MICAL3c)で酸素安定同位体比分析を行った.耳石径に個体差(50μm程度~)はあるものの,MICAL3cで分析可能範囲である炭酸塩量0.2 μg以上が得られていることがわかった.微小サイズの耳石でも同位体測定が可能であり,さらに,マニキュアによる測定結果への影響がないことを確認した. 稚魚耳石(耳石径:約500~750μm)は樹脂で包埋後表面をマニキュアで保護されていたため,アセトンで試料表面のマニキュアを溶解し,耳石の縁辺付近から核にかけてマイクロミリングシステム(Geomill326)を用いて,連続切削を行った.Geomill326使用の際,切削目的位置を含む四角形の対角線上の頂点に補正点を打つ必要があるが,アセトンの影響で樹脂が軟化し,樹脂に補正点を打つことは困難であった.そこで耳石の最縁辺部に直接補正点を打つことにより,以降は従来と同様の操作を施行できた.また,酸素安定同位体比分析の結果,仔魚から稚魚にかけての生息環境の履歴を抽出できた.本研究結果より,保管されている過去に採集された試料の活用による稚仔魚期の回遊経路解明研究の発展が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究内容を継続すると共に,(1)日本周辺海域に生息する他魚種についても耳石の酸素安定同位体比を測定し,日周輪レベルでの成長に伴う水温履歴を検証し,北西太平洋での移動経路,さらには鉛直移動履歴について検証する.(2)得られた水温履歴をA03-6の回遊モデルに組み込む事で,環境要因との因果関係の解明に向けての貢献へと引き継ぐ.また,(3)高解像度の安定同位体分析によって得られたデータが個体レベルのものなのか,魚種を代表するデータなのかを検証するために,複数個体の高解像度解析によりその汎用性を検証する.これらの検討内容を主軸に柔軟な発展研究も模索する.
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