本研究は日本周辺海域を回遊する魚種を対象に,耳石の安定同位体組成に記録される水温などの環境情報を高解像度で解析することを目的としている.日輪レベルまでの高時間分解能での回遊履歴を抽出することにより,産卵時期・規模,回遊中に魚類が経験した水塊情報の推定,そして当該魚種の集団構造を明らかにすることへの貢献を目指す.全ての研究は研究計画班A03-6班と連携をとりながら進め,相互の研究特性を活かしながら適切な研究対象を選定して,モデル解析に対しての高解像度の実証データとして提供することを目指して研究を進めている. 本年度は昨年度に引き続きマサバ太平洋系群を研究対象とし,資源量が高水準で個体サイズも大きい2013年のマサバと,資源量が低水準であった2014年および2015年のマサバ稚魚耳石のd18O分析を行い、経験水温の推定と資源量との関係を明らかすることを試みた. 結果,稚魚耳石の連続切削の技術開発により平均3~4日間隔で成長段階ごとの経験水温の復元を行うことができた.資源量が高水準であった2013年の個体は,2014年および2015年の個体と比べて,核付近から縁辺まで一貫して高いd18Oを示し,低い水温を経験していることが明らかとなった.今後は,さらに各年のマサバ個体のd18O履歴(水温履歴)と資源量変動との関係を比較していくことで,環境変動と資源量変動との関係を明らかにしていくことができると考える.今後の展開としては,海水の同位体比も考慮し,より正確な水温換算を行うことで,経験水温推定の高精度化につながり,詳細な回遊経路と資源量変動要因の解明が期待できる.
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