研究領域 | 非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01610
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水原 啓暁 京都大学, 情報学研究科, 講師 (30392137)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 認知神経科学 / コミュニケーション / 音声知覚 / 神経オシレーション / 神経回路 / 脳機能イメージング / 引き込み / 情報統合 |
研究実績の概要 |
脳内の異なる感覚器官間での情報統合が神経オシレーションの強調により実現されていることを,マガーク課題を用いて脳波計測実験により検証した.マガーク効果とは,視覚映像における口の形状(e.g., /ga/)と聴覚音声(e.g., /ba/)が異なる場合に,視覚にも聴覚にも提示されていない音声(e.g., /da/)を知覚する現象である.つまりマガーク効果を利用することにより,異なるモダリティ間での情報統合が発生したことを検証可能であり,このときの神経オシレーションの役割を検討した.特にマガーク効果を生成する視聴覚統合においては,視覚情報を先に提示する場合と,聴覚情報を先に提示する場合において,異なる時間窓で情報統合が発生することが報告されている.このときの情報統合に関する心理実験結果を詳細に検討したところ,視覚刺激を先に提示した場合においては聴覚刺激を先に提示する場合と比較して,その情報統合の時間窓が2倍になることを見出している.また,我々の先行研究において,視聴覚情報統合には視覚皮質におけるα波オシレーション(10Hz付近)と聴覚皮質におけるθ波オシレーション(5Hz付近)が関与していることが明らかになりつつあり,マガーク効果における時間窓の違いには,この2種類のオシレーションの周波数比率が寄与しているものと考えている.そこでマガーク効果課題を遂行中の脳波計測を実施することで,異なる皮質(視覚-聴覚皮質)間において複数周波数の神経オシレーションの階層的な相互作用により,情報統合が行われていることを検証した.特に,我々の従来研究において,視覚皮質および聴覚皮質の神経オシレーションの位相シフトが,異なるモダリティ間の情報統合に関与していることが明らかになりつつあることから,視聴覚情報統合と神経オシレーションの位相シフトとの連関について検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳内の皮質間のコミュニケーションと脳間のコミュニケーションが,神経オシレーションの位相協調により統一的に記述可能であるとの仮説のもと,コミュニケーション場面における情報統合機能について検証すること目的として,神経オシレーション協調と情報統合機能との連関について検証する.特に情報統合機能として視聴覚統合において観察される「マガーク効果」に着目することで,認知心理学的な観点から神経オシレーションと機能との連関について明らかにする.この目的のために,マガーク効果課題遂行中の脳波計測により,神経オシレーションの位相シフトの発生を検証するとともに,この課題を応用した情報統合課題を用いて二名の被験者の脳波の同時記録(ハイパースキャニング)を実施する. 当初の申請書の研究計画通り,平成28年度においては,マガーク効果課題を用いた脳波計測により,視覚と聴覚の異なる感覚器官間での情報統合が,神経オシレーションの位相シフトにより実現されていることを検証することを目的としていた.これまでに,マガーク効果課題を用いたときの脳波計測を37名の実験参加者を対象として完了している.また,脳波の位相シフト解析により,視覚入力,聴覚入力がそれぞれ先行した場合に異なる周波数の神経オシレーションの位相シフトが発生するとした我々の仮説を支持する解析結果を得ている.これにより,脳内での情報統合は,神経オシレーションの位相シフトにより実現されていることが明らかになった.これは申請当初の研究計画における重要な第一段階である. 以上のことから,おおむね当初の予定通り計画が進んでいると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では,脳内と脳間のコミュニケーションが神経オシレーション協調により統一的に記述可能であることを示すために,以下の2つの研究課題について実施する計画である. (1) 神経オシレーション協調による視聴覚情報統合メカニズムの検討 (2) 二名の脳波ハイパースキャニングによる脳間情報統合メカニズムの検討 「(1)神経オシレーション協調による視聴覚情報統合メカニズムの解明」では,情報統合の心理指標としてマガーク効果を用いることで,異なるモダリティ間での情報統合が神経オシレーションの位相シフトにより実現されていることを示す計画である.マガーク効果における従来の心理実験結果を詳細に検討したところ,視覚皮質と聴覚皮質においてそれぞれ異なる周波数の神経オシレーションが情報統合に寄与している可能性を見出している.そこでこれまでに,異なるモダリティ間の複数の周波数の神経オシレーションの階層的な位相協調により,脳内では情報統合が実現されていることを脳波計測実験により明らかにすることを目的として,マガーク効果課題実施時の脳波計測を実施した.既に脳波計測は完了しているとともに,仮説を支持する解析結果を得つつあることから,引き続き,脳内の情報統合における神経オシレーションの役割についての詳細を検討する. さらに,平成29年度においては,「(2) 二名の脳波ハイパースキャニングによる視聴覚情報統合メカニズムの検討」を開始する.この研究課題では,二名の被験者で協調して課題実施している最中の脳波をハイパースキャニングする.特に我々の従来研究において,二名の被験者間の神経オシレーション協調には,δ波帯域の緩やかな周波数のリズムが重要であることを見出しており,このリズムの神経オシレーションを操作した際の二者の脳間での神経オシレーション協調と情報統合との連関について検証する.
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