研究領域 | 非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01612
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田村 弘 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (80304038)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 眼球運動 / 確率モデル / サッケード / 同期発火 / 階層構造 / 大脳皮質 / 物体認識 / サル |
研究実績の概要 |
本研究では、多領野大規模並列神経活動データ計測手法を自由視/自然視条件下のサル大脳皮質視覚関連領野に適用して、1)眼球運動に関連した振動的神経活動とその同期現象の神経メカニズムの解明と2)眼球運動に関連した振動・同期現象に対する視覚的注意の影響の解明を目指す。平成28年度は、自由視/自然視条件における眼球運動特性の定量化とモデル化を行った。さらに神経活動の同期現象が大脳皮質領野間で変化することを明らかにした。 1、自由視/自然視条件における眼球運動特性の定量化とモデル化:自由視/自然視条件での眼球運動の特徴を画像に含まれる物体像との関連で定量的に記述した。これまでの研究より、個体が自由に眼を動かしながら自然画像を観察する際に、観察前半ではサッケード距離は長く、後半では短いことが示されてきた。本研究では、注視対象となる物体に注目した解析を行うことで、観察前半では注視位置は物体間を移動し、後半では特定の物体内を移動することが明らかになった。さらに、モードの変化が確率的モデルによって説明できることを示した(Ito et al., Sci Rep, 印刷中)。 2、神経活動同期現象の大脳皮質領野間での変化:大脳皮質の様々な領野において、振動的神経活動の同期現象の基礎となるスパイク活動の同期現象に関する研究が行われてきた。しかしながら、この同期現象の性質が領野間で共通するのかは不明であった。そこで本研究では、マカク属サルの複数の大脳皮質領野(第一次視覚野、V4野、下側頭葉皮質)間で、スパイク活動同期現象を定量的に比較した。神経活動データは、鎮痛不動化標本を用いて、大規模並列神経活動データ計測手法を適用して取得した。様々なパラメータが領野間で異なること、さらにいくつかのパラメータは階層構造にしたがって変化することを見出した。この成果は第40回日本神経科学大会において発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度に予定していた多領野大規模並列神経活動データ計測手法を自由視/自然視条件下のマカク属サル第一次視覚野と下側頭葉皮質に適用して、ワイドバンド神経活動データを取得することができた。得られた神経活動データから局所電場電位を抽出し、電流源密度解析を適用することにも成功した。スパイク活動についてはオフラインでスパイクソーティングを実施し、すべてのデータについて、ソーティングを完了することができた。現在、予備的な解析を実施中である。また、自由視/自然視条件下の神経活動の解析に必須となる眼球運動解析から、新たな知見を得ることができた。すなわち、自由視/自然視条件における眼球運動特性の定量化とモデル化を行った(Scientific Reports誌、印刷中)。さらに、領野間同期現象の解析のための予備的知見として必須である、各領野における同期現象の特性について明らかにすることもできた(第40回日本神経科学大会、プレプリント及び査読論文投稿準備中)。以上のように当初計画に従って研究を進めると同時に、予備的データ解析から得られた知見について、論文発表・学会発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
申請書の計画に基づいて、実験・解析を進める。第一に、平成28年度におこなった解析より明らかになった、スパイク活動同期現象の大脳皮質領野間での変化に関する成果について、学会発表をおこない(第40回日本神経科学大会)論文投稿をおこなう(プレプリント及び査読論文投稿)。第二に、個々の領野におけるスパイク活動振動現象に関する解析を実施する。現在実施中の予備的な解析より、全計測期間のデータを用いた場合には振動的神経活動が観察されない場合でも、単一試行データや単一刺激条件において振動的神経活動が観察される場合があることが明らかになった。これは、試行間、刺激間で振動周波数が変化するためと考えられる。この点に注目して、各領野における振動的神経活動の特徴を明らかにすることを目指す。第三に、平成28年度に取得した自由視/自然視条件下のマカク属サル第一次視覚野と下側頭葉皮質から同時計測した神経活動計測データを用いて、振動的神経活動とその領野間同期現象に関するデータ解析を実施する。特に自然画像観察中に眼球運動モードが切り替わることに着目した解析を実施することで、モードの切り替わりが振動的神経活動とその領野間同期とどのように関わるのか明らかにすることを目指す。第四に、振動現象とその同期に対する視覚的注意の影響を明らかにするために、自由観察課題に加えて特定の物体に注意を向ける視覚探索課題も遂行するように訓練したサルから同様の方法で神経活動の計測をおこなう。
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