研究領域 | 非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01613
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木津川 尚史 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (10311193)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2018-03-31
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キーワード | リズム / Step-wheel / 走行 |
研究実績の概要 |
運動を連続して行うとリズムが生まれる。リズムは運動の基準となる周期であり、複数の体部位がこの周期に引き込まれて連動し、運動は統制される。しかし、リズムを司る脳部位やリズム生成機構は不明である。申請者は、水を報酬にしてマウスに連続ステップ走行運動を行わせるステップホイール装置を開発し、複雑なステップ時の運足、飲水のタイミングと神経活動の同時測定を行ってきた。マウスは走行しながら水を飲む。走行も飲水も周期的活動である。走行と飲水は別々のタイミングで行われてもよいように思われる。しかし、走行するマウスの運足タイミング、飲水タイミングを解析した結果、運足リズムの中に飲水リズムが組み込まれる形で同期していることがわかった。このことは、脳は、1)複数の異なる運動の周期を検出して、2)それらがお互いに整数倍になるように位相を揃える、という機能を持っていることを示唆している。走行するマウスにおいて大脳基底核線条体の神経細胞が活動することがわかっていたため、線条体にテトロード電極を挿入して、神経活動を記録した。その結果、マウスの運足に反応する神経細胞が多数観察された。線条体は、歩行障害を引き起こすパーキンソン病の病因となる脳部位であるが、これまで歩行に関連する神経活動は知られておらず、歩行関連の神経活動が見いだされたことは重要な知見と考えられる。この運足関連神経活動の特徴を解析したところ、大脳皮質の運動関連神経活動と比較して、周期性が高かった。このことは、線条体が周期の検出に関与している可能性があることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ステップホイール装置におけるマウスの走行解析から運足リズムと飲水リズムの入れ子状のリズム組織化を見出したことにより、脳は1)複数の異なる運動の周期を検出して、2)それらがお互いに整数倍になるように位相を揃える、という機能を持っていることが明らかになった。これに関する神経活動を線条体から見出した。具体的には、運足周期に依存して活動状態を変化させる神経細胞、また、左右前肢の位相に依存して活動状態を変化させる神経細胞の発見がある。また、運足リズムー飲水リズムの相互作用にアセチルコリン産生介在神経細胞が関与していることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
ステップホイール装置を走行するマウスの運動とその際に記録された線条体神経細胞の活動から、線条体リズム検出器仮説「大脳皮質の活動の中にある不完全で多様な時間間隔・周期から、個々の線条体神経細胞が、特定の周期を検出し、さらに左右の大脳皮質からの入力を受けて特定の位相差を表現している」をたてている。この仮説を検証するために、頭部を保定した覚醒マウスを用いて、大脳皮質に様々な周期で刺激を加えて、その反応を線条体から記録する。個々の線条体神経細胞において、活動が最大となる至適な周期を求める。また、至適な位相を探索する際には、左右の大脳皮質両半球に別々に、様々な位相になるように光刺激を与える。このような刺激を与えているマウスの線条体に挿入したテトロードから複数の神経細胞の活動を記録しており、解析を進めている。
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