研究領域 | 非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01614
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野村 泰伸 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50283734)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体生命情報学 / 計算論的神経科学 / 生体医工学 / 運動制御 / 生体シミュレーション |
研究実績の概要 |
我々は、ヒト直立姿勢・二足歩行運動を安定化しつつ姿勢の柔軟性も確保できる神経制御メカニズムとして、従来から通説となっている持続的スティッフネス制御とは異なる間欠制御仮説を提唱している。本研究は、計算論的神経科学の観点に立って、ヒトの直立姿勢制の神経制御メカニズムを解明す ること(間欠制御仮説の妥当性を示すこと)を目指している。H28年度の研究では、倒立単振子モデルの姿勢安定化課題において、力学的なエネルギーを消費すること、および立位姿勢が転倒に至ることに対して罰(負の報酬)を与えるような報酬関数のもとで行われる強化学習により、立位姿勢の不安定平衡点である直立姿勢状態周辺におけるサドル 型ダイナミクスを巧みに利用する間欠制御戦略(間欠制御器)が獲得される得ることを、数値シミュレーションによって示した。また、このような強化学習によって獲得される制御器が、運動学習過程においてそれを確率的に探索するためのノイズ強度にどのように依存するかを調査した。その結果、間欠制御器が獲得されるか、持続的制御器が獲得されるかは、探索ノイズの強度に左右されることを示した。この結果は、神経系の内因性ノイズの強度の変調が、パーキンソン病患者に見られる立位姿勢の剛直化や不安定化に関与している可能性を示唆するものである。さらに、現在、静止立位姿勢の倒立二重振子モデル、および二足歩行運動を安定化する強化学習モデル化構築にも着手しており、良好な成果をあげつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は、概ね研究計画に沿って進捗している。計画では、静止立位姿勢の強化学習モデルを、単一振子および二重振子の双方に関して、完了する予定であったが、倒立二重振子の安定化学習は現在進行中で、現時点では完了していない点はマイナスの評価である。しかし、ヒト静止立位中の複数関節(股関節と足関節)が示す運動ゆらぎの興味深い特性が存在することを明らかにし、倒立二重振子の間欠制御モデルがその特性を再現できる可能性を明らかにしつつあり、この成果は、計画以上に進展したプラス評価面であると考えている。また、二足歩行運動の安定化制御の強化学習モデルの構築も、完了はしていないもののほぼ計画に沿って進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、研究計画に沿って、姿勢および歩行リズムのゆらぎに現れるフラクタル性と強化学習による姿勢の安定化制御(間欠制御)の関係を、理論および生体計測実験の両面から明らかにする予定である。また、強化学習で獲得された制御器の神経回路による実装形態に関する研究を進捗できると考えている。後者の点に関しては、本新学術領域研究に参加されている脳科学者の協力が得られるように働きかけを行いたいと考えている。さらに、当初の計画に加え、ヒト固視中の眼球位置のゆらぎ(固視微動)に関しても、姿勢と歩行の運動ゆらぎ解析と類似の方法論を適用し、我々が提唱する間欠制御仮説(理論)の一般化(汎用化)を図る研究も推進したいと考えている。
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