研究領域 | 非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01617
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
末谷 大道 大分大学, 工学部, 教授 (40507167)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カオス / 脳情報表現 / リザバー計算 / データ同化 / カオス的遍歴 / 複雑系 |
研究実績の概要 |
H28年度では、リザバー計算の一つであるFORCE学習モデルを用いて、複数の短時間の時系列パターンの生成させる課題を行った。パターンの生成能力はリザバーの力学系としての特性に依存し、最適なパラメタ領域におけるリザバーは、力学系として弱いカオスあるいは過渡的なカオス活動を示すことがわかった。また、自発活動モードでは、トリガー入力を与えなくとも、あたかも「勝手に思い出す様に」軌道が複数のパターンを間欠的にスイッチしながら遷移するというカオス的遍歴と見られるダイナミクスを示すこともわかった。これは、ネコの視覚野において外部からの入力がない場合でも方位選択マップ的な活動が生じているというKenetらの結果との類似性があり、脳科学的にも意義のある結果と考えられる。以上の結果は、ドイツおよび香港で開かれた力学系の国際研究会において口頭発表し、現在論文にまとめている段階である。 また、実用的応用および結合力学系の文脈から、対象となるカオス力学系とリザバーとの結合系を考え、(一般化)同期現象の獲得としてその対象となる力学系のカオス時系列データを学習させる課題についても取り組んだ。その結果、初期値の異なる時系列データを個別に記憶するのではなく、背後にある力学系そのもの(アトラクターおよびその近傍の解構造)をコピーするという一種の汎化能力をリザバーが持つこともわかった。数理モデルに加え脳波データに適用した際の予備的結果を北米神経科学会年会や日本物理学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FORCE学習に最適なパラメタ領域において、リザバーが自発活動としてカオス的遍歴を示したことは大きな発見であった。しかし、この「最適なパラメタ領域」の背後にある力学系としてのあるべき性質については未だ明らかとなっていない。Lyapunov解析およびその拡張した概念(安定カオス)に基づいてその特性を明らかにする必要がある。また、システム同定やデータ同化などの応用上の観点から力学系のコピーに関する研究についても幾つかの有望な結果が得られ、概ね順調に進んでいる。さらにノイズを入れた場合や、実際の脳波データなどへの応用が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
リザバー計算の持つ情報処理能力について、Lyapunov解析および安定カオスの概念に基づいた解析を通じて柔軟さと多様さが両立する自発的ダイナミクスの背後にある力学系としての特性とは何かについて探求する。また、方位選択マップの自己組織化モデルを拡張したモデルの構築することにより、Kenetらの発見と我々の研究との関係を明らかにする。さらに、脳データ同化へのリザバー計算の応用を念頭に、実際の脳波データに対するFORC学習を用いたシステム同定に関する研究を進める。
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