本研究では、ランダム神経回路による学習モデルとして知られるリザバー計算の一つである FORCE 学習を用いて、外部からのパルス入力に対して時系列を生成させる課題(入出力関係の学習)に取り組んだ。その結果、最大リアプノフ指数が僅かに正でかつ揺らぎの大きな「弱い」カオス状態が最適なパフォーマンスを示すことがわかった。さらに、多数の標的パターンを一つのネットワークに学習させると、自発性活動の中に(刺激入力がない状態でも)、幾つかの典型的なパターン間を間欠的に経り巡る遍歴的ダイナミクスが発生することを発見した。特に今年度は順序パターン(ordinal pattern)という時系列の振幅の大きさに関する順序情報を利用した統計量と主成分分析や多様体学習を合わせたアプローチを開発し、高次元空間の中で遷移する遍歴ダイナミクスを低次元空間に可視化することに成功した。 また、理論モデルの研究だけではなく、実際の脳波(EEG)時系列データの解析にも現在取り組んだ。まず、100 名以上の被験者から計測した安静閉眼状態における脳波に対して、順序パターンに注目したパターンを用いた解析を行った。その結果、順序パターンに関するエントロピー(permutation entropy:PE)の空間分布は幾つかのタイプに分類されることを発見した。さらに、数ヶ月経って再計測しても個々人のPEの空間分布は定性的に変化しない、すなわち、自発性活動の多様さを表すresting EEGのPEパターンに個人の特性が現れていることがわかった。
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