免疫系に対する宇宙滞在や重力場変動の影響に関し、これまで数多くの研究が行われてきた。免疫系の恒常性維持には、血球系細胞だけでなく、それらを産生、選択、維持する免疫組織の微小環境を形成する細胞(上皮系細胞、間質系細胞など)が必要である。しかしながら、宇宙環境リスクによる免疫組織微小環境の変動やそのロバスト性に関しては、ほとんど研究がなされていない。そこで本課題は、胸腺を構成する上皮細胞に対する重力の影響を明らかにすることを目的とした。 1.「胸腺環境を形成する細胞に対する後肢懸垂の影響」:マウス後肢懸垂マウスは宇宙滞在の地上モデルとして利用される。胸腺は、外部環境の変化により最も影響を受けやすい免疫組織の一つであるが、どの胸腺構成細胞が後肢懸垂により影響を受けるのか詳細に調べられていなかった。14日間後肢懸垂したマウスの胸腺をフローサイトメーターや免疫組織染色で解析したところ、胸腺のT細胞の比率には大きな影響がないが、胸腺の微小環境を形成する胸腺上皮細胞が減少していた。また尾部懸垂したマウスから胸腺上皮細胞を単離し、RNA-seq法を用いて尾部懸垂により変動する遺伝子群を同定した。 2.「微重力が胸腺に与える影響」:国際宇宙ステーションの微重力下で滞在したマウス、微重力状態で人工的に1Gを負荷したマウス、地上対象マウスの免疫組織(胸腺、脾臓、リンパ節)を採取した。胸腺の重量は微重力マウスで減少し、1G負荷マウスにより減少が抑制された。胸腺の構築をヘマトキシリンーエオシン染色で検討したところ、顕著な違いは見られなかった。一方で、免疫組織染色を行ったところ、ケラチン5陽性胸腺上皮細胞の分布に異常が見られた。これらの結果は、長期の微重力負荷は、胸腺におけるT細胞分化には大きな変化を与えないが、胸腺上皮細胞の維持に影響することを示唆している。
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