公募研究
骨組織に対する力学的負荷は骨組織恒常性維持に非常に重要である。宇宙空間における微小重力環境や寝たきりといった骨組織に力が加わらない状態では、骨量が著しく減少し、骨折しやすい骨粗鬆症(不動性骨粗鬆症)に陥る。骨粗鬆症では、骨を破壊する破骨細胞の分化因子であるRANKLと呼ばれるサイトカインの発現亢進を介して破骨細胞の分化や骨破壊能が促進される。しかし、微小重力環境で骨量低下を引き起こすRANKL発現亢進の分子メカニズムは不明な点が多いことから、本研究ではRANKLの発現に焦点を当て、微小重力環境で骨量が低下するメカニズムを明らかにすることを目的とする。今年度は、RANKL発現細胞を単離・同定するためのRANKL発現細胞レポーターマウスの作成を行い、ゲノム編集技術によりRANKLプロモーター制御下でtdTomato-Creを発現するノックインマウスの作成に成功した。また、微小重力環境におけるRANKL発現の分子メカニズムを明らかにする目的で、既知のRANKL発現細胞のRANKLプロモーター直下にtdTomato-CreのcDNAをノックインした細胞株を樹立した。微小重力環境培養装置を用いてノックイン細胞を培養したところ、培養開始72時間においてtdTomatoの発現が確認され、in vitroにおける解析系の確立に成功した。さらに、微小重力環境で誘導される骨組織の変化を明らかにするため、平成28年7月から8月にかけて国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」で行われた長期飼育マウスの骨組織解析を実施した。その結果、微小重力環境で飼育したマウスでは、1Gの人工重力環境で飼育したマウスと比較して、著しい骨量低下が認められた。また、骨組織の詳細な解析から、微小重力環境では破骨細胞による骨破壊が亢進していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたRANKL発現細胞レポーターマウスの作成は順調に終了し、マウスの系統確立を予定通り行なった。また、微小重力環境培養装置を用いた擬似微小重力環境下における細胞培養系を当初の計画通り確立し、この培養系におけるRANKL発現細胞でのRANKL発現誘導に成功、さらにRNA-seq解析による網羅的遺伝子発現解析を実施することで、RANKL発現細胞におけるRANKL発現制御メカニズムの解析を実施するための基盤を構築するに至っている。このほか、宇宙マウス実験におけるマウスの骨組織解析も実施し、骨組織より抽出したRNAを用いたRNA-seq解析も実施しており、多角的なRANKL発現制御メカニズムの解析が可能な基盤構築にも成功したことから、現時点で本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
次年度は、作成したRANKL発現細胞レポーターマウスを用いた尾部懸垂実験を実施し、骨組織に力学的荷重がかからない状況でRANKLの発現が誘導される細胞の同定並びに単離を実施、さらに網羅的遺伝子発現解析から力学的非荷重環境下でRANKLを発現する細胞の特性を明らかにする。また、当該マウスは蛍光タンパク質td-TomatoをCreリコンビナーゼとの融合タンパク質として発現することから、RANKL発現を制御することが想定される遺伝子のfloxマウスと交配することによりRANKL発現細胞特異的なコンディショナルノックアウトマウスを作成することが可能であり、今後実施する遺伝子発現解析を基盤として生体におけるRANKL発現制御因子の重要性を明らかにする。一方、今年度確立したin vitroの疑似微小重力環境細胞培養系を用いて、RANKL発現細胞を培養し、RANKL発現誘導に関与する転写制御因子の同定を試みる。この解析から、RANKL発現細胞がいかなるメカニズムで微小重力を認識し、いかなるメカニズムでRANKL発現を誘導するのか、分子レベルで明らかにしていく。
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http://iss.jaxa.jp/kiboexp/news/20161205_mouse.html