公募研究
骨の代謝を制御する詳細なメカニズムは明らかではない。宇宙空間で骨量が減少するため、重力は骨代謝に関わる一つの要因と考えられる。我々は過去2回宇宙実験を行った。その解析結果から、破骨細胞は活性化しており、ストレス応答として知られるGR(グルココルチコイド受容体)のシグナル伝達が微小重力環境で上昇していることを見出した。そこで、重力ストレスに関連した破骨細胞の性質を調べる。我々のグループは2014年において、国際宇宙ステーションにある「きぼう」日本実験棟で骨芽細胞と破骨細胞が蛍光で光る遺伝子を組み込んだメダカを、8日間の連続で顕微鏡を用いて観察し、両細胞の蛍光シグナルが無重力下で急速に活性化されていることを明らかにした(代表研究者、工藤明教授)。また、無重力に応答する遺伝子を網羅的に解析した結果、骨関連遺伝子の他に5つの遺伝子、c-fos, jun-B-like, pai-1, ddit4, tsc22d3が発現上昇することを見出した。今回の成果は、世界で初めて宇宙で8日間顕微鏡連続撮影したことによるもので、宇宙空間を利用した無重力での骨量減少を解明する新たな手掛かりが得られたことになる。動物モデルが無い老人性骨粗鬆(そしょう)症の原因解明に繋がることが期待できる。重力研究にメダカをモデル動物として用いるため、メダカの破骨細胞の基礎的な性質を明らかにする実験を行った。骨の関連遺伝子を欠損したノックアウトメダカを解析した結果、全身における破骨細胞の新たな分化様式を見出した。無重力環境下における骨吸収の活性化はGCのシグナル活性化が原因であるという仮説を立て、GC(グルココルチコイド)の作用を調べた。破骨細胞トランスジェニックメダカにGCのアクチベーターであるプレトニゾンを投与した結果、通常では破骨細胞が全く観察されない鱗に多量の破骨細胞が濃度依存的に出現することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
国際宇宙ステーションを利用した微小重力環境への遺伝子発現応答を解析し、論文として発表した。そこで明らかになった発現上昇する遺伝子群からグルココルチコイドに着目し、メダカの生体に対する破骨細胞の応答性を調べた。さらにそれに関連した遺伝子改変動物も作製中である。新しい職場に移って1年が経過し、研究に必要な機材が揃いつつあり、今後さらに研究が進むことが期待される。
2回の宇宙実験から微小重力環境に遺伝子発現が変化する遺伝子を明らかにした。それに関連する遺伝子改変メダカを作製する。また、過剰のグルココルチコイドによって鱗(うろこ)に破骨細胞が誘導されてくることを示した。そのメカニズムを明らかにすることを目標とする。実験結果を元に新しい破骨細胞の活性化メカニズムを解明する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
骨粗鬆症治療(先端医学社)
巻: 16 ページ: p56-62
no.1
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 1-14
doi:10.1038/srep39545