研究実績の概要 |
[目的] 低周波騒音(LFN)は、ヒトには殆ど聞こえない100 ヘルツ(Hz)以下の周波数を持つ音と定義され、屋内では空調・フリーザー・電子機器などから発生する物理的環境因子である。過去の国際宇宙ステーション(ISS)内の騒音リスク調査では、70デシベル(dB)の音量で70時間曝露は聴覚に影響しなかったと報告されている。しかしながら、その調査では、音の高低、つまり周波数を考慮せずに騒音を調査しており、その実体はLFNである可能性が高い。本研究は、ISS内の閉鎖空間を想定してLFNによる健康リスク評価を実施し、予知・防御対策を開発する。 [方法] ICR系統の野生型マウスを対象に100 Hzの低周波騒音を50, 60, 70 dBの音量でそれぞれ1ヶ月間曝露した。曝露後にローターロッド、平均台歩行試験を実施し平衡感覚への影響を解析した。また、聴力への影響を調べるために聴性脳幹反応を測定した。抗calbindin D28k抗体を用いた免疫組織染色により内耳前庭の有毛細胞を検出した。統計解析はunpaired t-test等を用いp<0.05を有意差ありとした。 [本年度の研究成果] ICR系統の野生型マウスを対象に、閉鎖空間でLFN(100 Hz)の1ヶ月間の常時曝露実験を実施した。その結果、50, 60 dBのLFNでは影響は観られず、70 dBで有意に平衡感覚障害を誘発された。一方、70 dBのLFNの常時曝露は聴力には影響しなかった。曝露群は内耳前庭(球形嚢・卵形嚢)のcalbindin-D28k陽性の有毛細胞の減少を伴い、不可逆的な平衡感覚異常を示す事が分かった。
|