惑星探査ミッション等で長期間宇宙に滞在する場合,実効線量として生物学的効果比の高い重粒子線の寄与が大きくなる。重粒子線は線エネルギー付与(LET)が高く,高密度に損傷を含むクラスター損傷が生物影響に関わっている可能性が指摘されているが,実験的にはその証拠や損傷密度に関する知見は得られていない。本研究では,重粒子線誘発クラスター損傷の性状を原子間力顕微鏡(AFM)で解析するとともに,塩基除去修復(BER)酵素によるクラスター損傷の不成功修復(abortive repair)の影響を調べ,重粒子線の生物影響メカニズム解明に取り組む。クラスター損傷の性状については,損傷部位をbiotin-avidin標識し,AFMで可視化分析する方法を検討した。モデルクラスター損傷で2つの損傷が3塩基離れているDNAについてAFM観察を行い,約60%の損傷が分離して観察された。この結果から,放射線誘発クラスター損傷でも,個別損傷の可視化分析が可能であると考えた。次に,プラスミドに誘発されるクラスター損傷分析のため,pUC19 DNAをX線およびFeイオン線で照射した。DNAをDNAグリコシラーゼで処理後,脱塩基部位をbiotin-avidin標識した。現在,DNAのAFM観察を行っている。クラスター損傷の不成功修復については,BER再構成系を用いてクラスター損傷修復を検討した。トップおよびボトム鎖にそれぞれ1つずつ8-oxoguanine (8-oxoG)を導入したDNA基質をOGG1+APE1+PolβとインキュベートしDSBを調べた。一つめの8-oxoG除去は効率良く起こるが,二つめの8-oxoG除去効率は,損傷の位置関係やBER酵素の修復反応の影響を受け,クラスターのタイプによりDSB生成量が変化することが分かった。
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