宇宙環境における微生物感染は、宇宙飛行士の健康に深刻な影響を与えうるリスク要因の一つである。近年、宇宙環境ではヒト-病原体の相互作用の変化が微生物感染リスクに深く関わる可能性が明らかになってきたが、微小重力がいかにして宿主-病原体の関係性に影響を与えるのかについて、詳細な分子機構は明らかになっていない。そこで本研究では、三次元オルガノイド培養系ならびにメダカを用いて、我々がこれまで注目してきた重力-YAPシグナル伝達系が、宿主-病原細菌間の相互作用に及ぼす影響を解析することにした。 1. 腸オルガノイドの安定的な培養系の樹立と細菌感染実験系の確立: 本年度は、大腸オルガノイドに対してサルモネラの感染を試みたが、宿主細胞内へのサルモネラの侵入を確認するには至らなかった。そこでマイクロインジェクション法により、オルガノイド内腔へサルモネラを直接導入し現在まで感染効率の向上を試みている。次にGFP発現サルモネラを感染させたヒト結腸癌由来Caco-2細胞において、YAPシグナル系分子の遺伝子発現をq-PCR法により精査した。その結果、サルモネラの感染により、YAPの下流遺伝子のひとつであるCTGFの発現が大きく減少することを見出した。 2. メダカ個体を用いたトランスクリプトーム解析: RNA-seq法によりメダカ野生型胚とYAP変異体胚との間の比較トランスクリプトーム解析を行った結果、免疫系のシグナル伝達分子などに顕著な発現変動が認められた。そこでヒトRPE1細胞においてq-PCR法により詳細な解析を行ったところ、YAPのノックアウトに伴い免疫系のシグナル分子の発現が上昇する傾向が認められた。以上の結果から、重力耐性遺伝子YAPによる免疫系シグナルの制御は、魚類からヒトに至るまで進化的に広く保存されている可能性が考えられた。
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