公募研究
筋萎縮などメカニカルストレスの応答異常による疾患(いわゆる無重力病)は代謝疾患である。つまり、メカニカルストレスに対する臓器・細胞の応答異常は、遺伝子異常を伴わない。研究代表者は、究極のメカニカルストレスである、無重力環境に対する生体の応答を、網羅的な代謝レベルの解析(メタボローム解析)を基盤に研究してきた。その結果、メカニカルストレスはミトコンドリアの代謝に最も強い影響を与えることがわかった(=無重力環境は負荷がかからないため、運動のためのエネルギー産生を必要としない)。つまり、メカニカルストレスは、筋肉や骨の細胞だけでなく、身体中のどの細胞にも影響を与えるストレス源である。神経細胞ではAconitase活性低下と脊髄小脳変性症の発症が密接に関係していることが知られている。今回、寝たきりモデル動物の骨格筋でもAconitase活性の低下が確認し、Aconitaseをノックダウンした筋管細胞の代謝を解析した。具体的には、宇宙空間で培養したL6細胞において、TCAサイクル上の中間生成物であるcisアコニット酸の蓄積が見られていたため、これらを触媒する酵素であり、酸化ストレス感受性を持つアコニターゼに注目した。そこで、3D-Clinorotationを行い、アコニターゼ活性について調べたところ、活性の有意な低下が見られた。また、アコニターゼノックダウンは筋管細胞の好気的解糖系を障害し、嫌気的解糖系を高めた。その結果、ATP産生量は減少した。さらに、アコニターゼノックダウンはDrp1を介してミトコンドリアの断片化を誘導し、遅筋型のミオシン重鎖の分解を引き起こした。
2: おおむね順調に進展している
1)「無重力や模擬無重力による筋細胞内酸化ストレスの誘導」:L6細胞を宇宙に打ち上げ、メタボローム解析を行ったところ、酸化ストレスの蓄積が示唆された。地上での模擬微小重力モデルでも、曝露後0.5時間という早い段階から酸化ストレス産生が増大していることが分かった。2)「酸化ストレスによるユビキチンリガーゼCbl-bの発現」:我々は、廃用性筋萎縮に関与する酸化ストレスを介した二つの経路を見出した。その一つ目は、筋質量を減少させる、転写調節因子Egr1/2を介したCbl-bの発現上昇経路である。我々は、Cbl-bの上流因子を調べるために、ルシフェラーゼアッセイを用いて、酸化ストレスによるヒトCbl-b遺伝子のプロモーター領域を解析したところ、上流-111 bp~-60 bpで酸化ストレス応答性のルシフェラーゼ活性の上昇がみられた。上流配列の候補タンパク質を用いたスーパーシフトアッセイから、Cbl-bの発現は酸化ストレス誘導性のEgr1/2であることが示された。3)「酸化ストレスによるミトコンドリア機能異常」:もう一つは、酸化ストレスがミトコンドリア・アコニターゼ活性を不活化し、ミトコンドリアの機能障害を引き起こす経路である。宇宙空間で培養したL6細胞において、TCAサイクル上の中間生成物であるcisアコニット酸の蓄積が見られていたため、これらを触媒する酵素であり、酸化ストレス感受性を持つアコニターゼに注目した。そこで、3D-Clinorotationを行い、アコニターゼ活性について調べたところ、活性の有意な低下が見られた。さらに、アコニターゼノックダウンはDrp1を介してミトコンドリアの断片化を誘導し、遅筋型のミオシン重鎖の分解を引き起こした。以上の成果をまとめ、現在論文をScience Signalingに投稿中である。
今回の大きな研究の進歩として、酸化ストレスの発生がミトコンドリアの断片化(機能異常)より先に起こったことである。この知見は酸化ストレスの発生源はミトコンドリアではない可能性を示唆した。この発生源が無重力センサーとどのような関連を持つのか解析していきたい。無重力ストレスの感知とシグナル応答は、①イニシエーションと②増幅の2段階のステップで行われている。イニシエーションでは、ミトコンドリアと小胞体(ER)の相互作用が重要な働きをしている。とくに、無重力環境は、MAMの構造を破壊し、細胞内にCa2+の放出を促す。様々な力学負荷を筋細胞に供したときのMAMの構造とCa2+の放出と酸化ストレスを解析する。具体的には、ある企業より、活性酸素とカルシウムを同時計測できる機器をレンタルすることができたので、模擬微小重力に曝露直後の活性酸素とカルシウムの測定を行う。おそらく、カルシウムの放出がMAM構造の破壊により起こることを世界で最初に証明できると期待している。一方、神経細胞ではAconitase活性低下と脊髄小脳変性症の発症が密接に関係している。今回、寝たきり患者の骨格筋でのAconitase活性の低下が確認できることより、寝たきりや無重力が未知の代謝疾患を誘導している可能性が大きい。Aconitaseやフラタキシンをノックダウンした筋管細胞の代謝を解析する。“無重力に対する極初期の応答分子”の同定は、代表者の長年に渡る研究の集大成である。国際宇宙ステーションでの宇宙実験も実施予定で有り、JAXAやNASA, ESAなど国際的な研究機関とも共同研究を進め、国内外から研究推進に必須の人材と共同研究してきた。「宇宙に生きる」という本新学術領域グループの目的達成に貢献しうると確信している。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 7件、 オープンアクセス 4件、 査読あり 11件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (2件)
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