公募研究
宇宙ステーションや月・火星などにおける、長期に渡る閉じられた空間での生活が、臓器や細胞に与える影響は不明である。しかしその影響について、閉鎖環境に滞在したヒトから臓器を取り出し、分子生物学的解析を加えて明らかにする事は難しい。またこれまでに、長期にわたるマイルドかつ持続的なストレッサーがマウスに与える影響を解析した研究は、ほとんどない。そこで本研究では、閉鎖環境がマウスの代謝の恒常性維持に与える影響について解析する。本年度はまず、通常の28%の体積の閉鎖空間に飼育した8週齢のC57BL/6Jマウスを解析した。閉鎖環境下では、体重増加の有意な抑制と食欲抑制が認められた。視床下部-下垂体-副腎系を介するストレスメディエーターとしての血漿コルチコステロンの濃度は、飼育1-2日目に増加し、いったん低下した後、21日目以降に再上昇する傾向を認めた。コルチコステロン濃度と体重の間には負の相関が認められたが、血糖値には有意差を認めなかった。また飼育28日目の血液検査では、血中TGとALTの有意な低下、BUNの有意な上昇を認め、低栄養とともに肝機能障害を認めた。一方、臓器重量には変化を認めなかった。以上より閉鎖空間滞在はマウスにとって、マイルドなストレッサーとなる事が明らかになった。次に、肥満が閉鎖空間ストレスに与える影響を、肥満モデルのdb/dbマウスを用いて解析した。閉鎖空間滞在群では、食欲抑制、体重減少、血糖値の低下傾向を認めた。コルチコステロン濃度は、飼育開始翌日と14日目以降に上昇する傾向を認めた。また、飼育28日目に胸腺重量の有意な低下を認めたが、副腎、性腺、脾臓の重量には対照との差を認めなかった。
3: やや遅れている
本年度は、閉鎖空間滞在モデルマウスを作製し、全身の表現型の網羅的かつ統合的スクリーニングによりそれらマウスの表現型を明らかにして、標的臓器として肝臓を同定するに至った。しかしながら、標的臓器における網羅的遺伝子発現解析までには至らず、閉鎖環境が代謝に与える影響の分子メカニズムは同定できなかった。
本年度の研究で、閉鎖空間滞在は特定の種のマウスにとって、持続的でマイルドなストレッサーとなる事が明らかになった。このモデルの確立により、マウス拘束モデルなどこれまでのストレス研究によくみられる、激烈で短期限定的なストレッサーの影響とは異なり、現実に即したストレッサーが与える影響を明らかにできる。つまり、このマウスについて、標的と考えられる組織・細胞を解析することにより、閉鎖空間滞在が生体代謝に与える影響を分子レベルで明らかにする事が可能となる。ストレスのメディエーターとしては、視床下部-下垂体-副腎系、交感神経系、サイトカインなどが知られている。今後は閉鎖空間が、コルチコステロンだけでなく、IL-6、TNF-αなどのサイトカインや神経伝達物質を介して、どのように生体の反応を引き起こすのかを解析する。また、肝臓、膵島などの組織学的、あるいは分子生物学的解析により、閉鎖空間滞在が生体代謝に与える影響の分子メカニズムを明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
Oncology Letters
巻: 13巻 ページ: 1731~1740
https://doi.org/10.3892/ol.2017.5628
Cell Structure and Function
巻: 41巻 ページ: 23~31
doi: 10.1247/csf.15015