研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01648
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研究機関 | 松本大学 |
研究代表者 |
河野 史倫 松本大学, 大学院 健康科学研究科, 准教授 (90346156)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超長期宇宙滞在 / 宇宙医学 / エピジェネティクス / 抗重力筋 / 個体差 |
研究実績の概要 |
長期間の走運動歴または筋損傷歴が、後肢懸垂による不活動に対する筋萎縮応答性に及ぼす影響をラットを用いて検討した。 走運動歴による影響:生後4週齢のラットを運動群とコントロール群に分け、運動群には時速1.5kmのトレッドミル走を1日40分、週5日間、8週間実施した。その後両群とも8週間通常飼育し、さらに1週間の後肢懸垂を実施した。その結果、コントロール群ではヒラメ筋、足底筋、腓腹筋、前脛骨筋に不活動による顕著な重量低下が認められたが、運動群ではヒラメ筋以外の後肢筋で萎縮が起こらなかった。足底筋を用いてRNA-seq解析を行った結果、コントロール群において筋萎縮時に挙動を示す遺伝子(683種)のうち271種が発現変化していないことが分かった。これらの遺伝子座では8週間の走運動によりヒストンアセチル化レベルが低下し、ヌクレオソーム形成の低下が認められた。以上の結果から、長期間の運動によるヒストン修飾変化が遺伝子構造の変化として残存し、将来的な不活動の応答性に影響したことが示唆された。 筋損傷歴による影響:成熟ラットの片側ヒラメ筋にカルジオトキシンを注入し、筋損傷を誘発した後8週間筋再生を促し、さらに1週間の後肢懸垂を行った。損傷を起こしていない正常側では、後肢懸垂により顕著な筋線維萎縮ならびに遅筋線維の減少が認められた。このような変化には筋損傷の有無による違いは認められなかった。従って、再生筋における筋萎縮応答は正常筋と同等であると言える。しかしながら、再生筋線維は正常筋線維の3分の1程度しか肥大しておらず、筋全体に線維化も認められた。筋再生過程において筋肥大しにくいことは、再生筋線維の不完全な機能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本テーマの最終目標は、過去のどのような生活習慣が不活動に対する筋機能低下を抑制するのか、またその裏付けとなるエピジェネティック機構を明らかにすることである。平成28年度の研究結果から、長期間の走運動が特に速筋における廃用性筋萎縮応答を減弱するという結果を得ることができた。さらに、この現象と関連付けることが可能なエピゲノム変化もデータとして得られたことから、研究テーマ全体の進行としては仮説どおり順調に進んでいると言える。過去の運動歴によって特定の遺伝子座においてヒストンのアセチル化が影響を受けることも分かったため、運動によって引き起こされるエピジェネティクスについても全容が見えてきている。以上の理由から、本テーマの進捗状況は当初の計画以上に進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の結果から、ヒストンアセチル化の低下と遺伝子応答性に関連があることが分かった。この詳細を調べるため、走運動実験から得られたサンプルを使って引き続きヒストンバリアントの挿入についても検討する予定である。運動歴、損傷歴に続き、平成29年度は加速度刺激による萎縮応答性変化について実験を実施する。運動によるメカニカルストレスや代謝ストレスだけでなく、地上では重力そのものが身体に及ぼす影響も考慮すべきである。受けた加速度刺激量によって萎縮応答性が変化すれば、運動による萎縮回避効果をもたらす要因としてパラメータ化することが可能である。平成28年度と同様に、応答する遺伝子群や共通して起こるエピゲノム変化について網羅的な解析を実施する。
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