研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H01650
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研究機関 | 名古屋経済大学 |
研究代表者 |
古市 卓也 名古屋経済大学, 人間生活科学部管理栄養学科, 准教授 (80436998)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 宇宙環境 / 環境ストレス / 高CO2 / 微小重力 / 重力感知 / 耐病性 |
研究実績の概要 |
国際宇宙ステーション(ISS)は地球周回軌道上に存在する高度閉鎖空間である。その船内環境は微小重力であると同時に、地上と比較して10-20倍もの超高濃度二酸化炭素(CO2)、宇宙放射線といった複合ストレスが存在する。また、ISSにおいて栽培された植物では徒長、結実不良といった、持続的生産の実現に向けて様々な障害が起こることが明らかとなった。そこでこのような特殊環境が植物の成長に及ぼす影響を分子レベルで明らかにすることを目的として、まず本年度の研究ではISSおよび地上で栽培したシロイヌナズナを用い、マイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った。ISS(軌道上1G区、同microG区)において栽培された植物において、地上対照区と比較して発現亢進または抑制する遺伝子群について、軌道上1G区、同microG区で共通して変動する遺伝子群を超高濃度CO2応答候補遺伝子、同microG区で特異的に変動する遺伝子群を重力応答候補遺伝子として、それぞれ100-200遺伝子程度の候補が得られた。次にCO2応答候補遺伝子については地上での超高濃度CO2栽培試験を行い、比較解析を行うことで、3遺伝子に絞り込むことができた。 ISS実験で絞り込まれた超高濃度CO2応答候補遺伝子には病原抵抗性遺伝子群の発現亢進がみられた。そこで超高濃度CO2区で栽培されたシロイヌナズナについて、エリシターまたはサリチル酸(SA)を投与した際のCa2+シグナルを計測したところ、野生株では超高濃度CO2区において、SA感受性が亢進した。この感受性亢進は、重力感知に関与するカルシウムチャネルの破壊株では見られない。さらにこの破壊株では通常、エリシター応答性が低下していること、超高濃度CO2区において、野生株と同程度にまで回復することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高濃度CO2の影響については耐病性亢進という想定外の成果を得るとともに、超高濃度CO2の影響のみを解析するマイクロアレイ解析を追加実施したことにより、候補を3遺伝子に絞り込むことができた。当初の予定は生育への「負の影響」を解析するものであったが、地上での農作物生産への応用可能性が高い「正の影響」について、明瞭な知見を得られた。 一方で重力感知機構に関する研究では地上での検証実験に必要なクリノスタットなどの装置設計および作成が遅れているために候補遺伝子の絞り込みができておらず、これに付随して年度当初に予定した研究の一部が立ち遅れている。しかし超高濃度CO2影響についての飛躍的進展と併せて勘案すれば、当初計画に相当する成果の獲得は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに絞り込みを終えた超高濃度CO2応答候補遺伝子3つについて、リアルタイムPCRによる詳細な解析を行うとともに、破壊株における表現型解析を行う。この絞り込みでは、超高濃度CO2栽培試験を行い、比較解析できたことが大きい。よって、現在作成している小型クリノスタット、過重力試験装置、さらには重力感知に関与するカルシウムチャネルの破壊株を活用することで、重力応答候補遺伝子についての絞り込み、複合影響解析が可能になると考えられる。 本研究で使用する重力感知に関与するカルシウムチャネル破壊株については重力応答性カルシウムシグナルが抑制されるものの、正常な重力屈性を示す。最近、植物の重力屈性に関連する生理機能として、姿勢制御システムの存在とそのメカニズムの一端が明らかにされつつある。次年度の研究では、このカルシウムチャネルが姿勢制御に関与するか、また抗重力能に関与するかについて、刺激試験による解析を行う。 超高濃度CO2区で栽培されたシロイヌナズナにおける病原抵抗性遺伝子群の発現およびサリチル酸応答性の亢進、重力感知に関与するカルシウムチャネルの破壊株におけるエリシター応答性の亢進について、農作物生産に活用するため、まずは装置の改良によってCO2濃度の調節を可能にすることで、条件の最適化を行う。また、その分子機構を解明するため、遺伝子発現変動解析および薬理学的解析を実施する。
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