国際宇宙ステーション(ISS)において栽培したシロイヌナズナについて、栽培開始から10日の時点でRNAlaterを用いて固定、帰還後にRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を実施した。地上対照区を基準とした発現変動解析を行ったところ、軌道上1Gにおいて2倍以上の発現変動が224遺伝子において示されており、実施時のISS大気中CO2濃度(約3000-4000 ppm)の影響、試料固定時のハンドリングにおいて30-60分程度マイクロGに暴露されることで生じる、「微小重力刺激」の影響を考慮すべきであると考えられた。そこで、栽培時の重力環境および大気環境、固定時の微小重力刺激の3要素を主たるストレスであると仮定して、まずは栽培開始から固定に至るまで恒常的な条件にある、高濃度CO2(4000 ppm)の影響を抽出して解析することとした。ISSにおいて使用した植物栽培ユニットと同型の地上機を用いた高濃度CO2環境で同期間栽培した試料を用いた遺伝子発現解析を行い、宇宙栽培試料と共通して発現変動が見られる遺伝子を探索したところ、3遺伝子の発現が亢進、4遺伝子の発現が抑制されることが明らかになった。高濃度CO2環境では宇宙実験と同様の徒長がみられ、生重量が20%低下した。発現変動がみられる遺伝子には窒素栄養に関わるもの、生殖成長に関わるものが含まれることから、高濃度CO2環境では炭酸固定量が増加することで、相対的に窒素量が低下する、これにより徒長が誘導される、との仮説に到達した。すなわち、宇宙閉鎖環境における農作物生産には、窒素施肥の強化が必要であることが明らかになった。また、高濃度CO2環境で栽培したシロイヌナズナでは、耐病性の亢進を示す結果が得られるとともに、抗酸化物質の蓄積が起こることを明らかにした。このことは、植物工場での栽培管理、品質向上において活用しうる、新たな知見である。
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