公募研究
1. TRPC3-Nox2機能連関による心臓の硬さ制御組織の線維化は多くの疾患において機能不全を起こした終末期における病態として認識される。心臓への長期的な機械負荷刺激は間質の線維化を惹起する。本研究において、我々は、カルシウム透過性カチオンチャネルであるTRPC3がNADPH oxidase 2 (Nox2)と安定複合体を形成し、機械的伸展誘発性のROS産生に寄与することを明らかにした。TRPC3はNox2と複合体を形成することによりNox2タンパク質を安定化させた。TRPC3欠損マウスを用いた結果、大動脈狭窄による圧負荷で惹起される心肥大は全く抑制されなかったものの、心臓の酸化ストレスと線維化(硬化)がほぼ完全に抑制されていた。以上のことからTRPC3-Nox2機能的連関は、圧負荷による心臓の硬度(線維化)を制御する重要な創薬標的となりうることが示唆された。2. ドキソルビシン心筋症におけるTRPC3-Nox2複合体の役割ドキソルビシン(DOX)は様々な悪性腫瘍に有効な抗腫瘍薬である一方で、重篤な心毒性が副作用として問題視されている。TRPC3欠損マウスまたはTRPC3-NOX2複合体形成阻害剤投与マウスにDOX を投与したところ、野生型マウスで観察される重篤な心機能低下と心重量低下が、TRPC3欠損または心筋細胞特異的TRPC3-NOX2複合体阻害ペプチド発現によってほぼ完全に抑制された。DOX投与マウス心臓ではTRPC3とNox2の発現量が増加しており、Nox2発現増加率と心重量低下が正に相関していた。DOX投与マウス心臓では低酸素シグナルが活性化しており、低酸素ストレスがTRPC3-Nox2複合体形成を促進している可能性が示された。以上の結果よりTRPC3-NOX2複合体阻害がDOXによる心毒性軽減につながる新たな分子標的となることが強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまでに我々は、心臓における機械的刺激に対する慢性的な組織応答においてTRPC3チャネルが重要な役割を果たしていることを明らかにした。TRPC3チャネルの活性化は、機械的刺激を細胞内におけるNox2を介した活性酸素種生成へと化学的に変換することに重要であった。この活性酸素によるシグナルは細胞骨格である微小管の再編成を惹起することを明らかにした。この活性酸素種の生成機構は、慢性化した心不全モデルにおいて心臓線維化の増悪因子として働いていた。これまでに運動負荷が心不全の予防につながることはよく知られており、Nox2の活性抑制もその一つとして報告されている。本研究において、TRPC3の存在がNox2の発現上昇および活性制御に必要であることが明らかにできた。現在、自発運動によるNox2の発現抑制機構におけるTRPC3の関与を明らかにしようとし始めている。運動による健康増進効果の標的の一つとしてTRPC3-Nox2の機能連関を明らかにできたことは、大きな進展と考えられた。
本年度までの研究において、筋組織における活性酸素種生成がその恒常性維持において重要であり、その制御を担う分子機構の一つとしてTRPC3チャネルとNox2の機能連関を明らかにしてきた。興味深いことに、このTRPC3-Nox2の連関は心臓の肥大・線維化だけでなく心臓の萎縮においても重要な役割を有していた。宇宙空間では、血行力学的負荷の低下による心臓の萎縮が起こることが知られている。つまりTRPC3-Nox2の機能連関を適切にコントロールすることは、筋委縮に対する新たな予防策あるいは改善策の開発につながることが期待される。多くのマウス心不全モデルにおいて、自発運動は予防および予後改善効果を有することが明らかにされている。これまでの予備検討において、自発運動負荷を与えたマウスにおいてはNox2の顕著な発現抑制を観察できている。このことから、運動負荷は心臓のNox2の発現を抑制する何らかの因子が増減することが予測される。これまでに我々はTRPC3のC末端の部分配列がNox2の発現に重要であることを見出している。そこで、この部位を標的として、Nox2以外の相互作用因子を網羅的に解析し、自発運動負荷によるNox2の抑制機構を明らかにする。その機構を標的とする創薬あるいは物理的療法の開発は、新たな筋委縮症に対する治療法の開発につながることが期待される。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 37701
10.1038/srep37001.
巻: 6 ページ: 39383
10.1038/srep39383.