本研究は,質感知覚の元となる表面知覚の必要条件について研究する.特に陰影を構成する低輝度成分(暗部)とテクスチャの物体内空間周波数 (cycles per item) 特性を明らかにする事を目的として研究を行った.本研究では,「暗部の情報が物体表面(拡散反射)知覚を支配する」という仮説について,広輝度帯域 (high dynamic range: HDR)の視覚刺激を用いた心理物理実験により調べた.暗部は主に素材表面の構造に基づく陰影に起因しているが,布の織り目までディスプレイで再現できず正確な材質感が得られない場合がある.他方,織り目の細部が完全に再現されなくても質感を知覚できる場合もある.これらの状況を考慮しつつ,物体サイズに依拠した空間周波数の尺度である「cycles /item(物体サイズ当たりの周期数)」にも着目し,適正な質感情報を与える空間的精度要件について心理物理学的に調べた. 4種類の材質(石,布,革,木)の平板画像71枚を用意し,その輝度ヒストグラムを作成した.画像全体の輝度を拡大/縮小した画像を作成し,どちらの画像がもっとも質感印象が強いかを選択させる実験を行なった.その結果は,材質によらず低輝度側にヒストグラムを縮小させた画像が選択された.これは視野全体における高輝度側と低輝度側の感度特性が異なることに依拠すると考えられる. そこで,空間周波数ごとのコントラスト感度関数(CSF)を異なる輝度レベルで測定する実験を行なった.通常は,刺激を呈示する視野全体の輝度を一斉に上下させるが,本研究では,ディスプレイの輝度レンジを明示的に示す背景を呈示し,CSF の測定を行なった.その結果,低い空間周波数の領域で輝度レベルによる違いが見られた.
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