われわれは、皮膚の表面で起こる摩擦現象の非線形性が多彩で繊細な触質感発現の一つの原因なのではないかと考えている。特に、ヒトがモノに触れる時は加速度がともなうため、アブノーマルな摩擦現象が起き、莫大な数の時空間パターンが発現する可能性がある。本研究では、まず、皮膚をはじめとするソフトマテリアル表面において加速度の加わった状態で起こる摩擦現象をモデリングするために、 正弦運動下におけるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)表面間の摩擦を評価した。2枚のPTFEを擦り合わせたところ、摩擦係数は速度の増加とともに増加し、その後、再び0.08まで低下する摩擦速度依存性と摩擦運動と摩擦力の応答の間に時間差δが観察された。この加速に伴う摩擦係数の増加と時間差は、本研究で検討した高分子材料だけでなく、皮膚や毛髪のようなソフトマテリアル表面でも観察された。このような摩擦現象は弾性率ksのバネと粘性係数ηのダッシュポットからなる摩擦モデルに基づいてモデリングすることができた。 次に、開発した摩擦モデルを用いてしっとり感の発現機構を解析した。6種類の試料について官能評価と物理特性の測定を行ったところ、最もしっとり感のスコアが大きかったのは粉体試料、最も低かったのは布試料だった。また、Sticky感とSmooth感が同時に知覚されるとしっとり感が喚起されること、Sticky感は滑り出しにおける静摩擦と動摩擦のギャップ、Smooth感は動摩擦過程における摩擦抵抗の変動によって支配されることが明らかになった。これらの知見は化粧品・繊維から自動車材料・情報機器・ロボットの開発に役立つであろう。
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