研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
16H01666
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小泉 直也 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (80742981)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 発色型情報提示 / クロミックインク |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,質感プロジェクタの実現に向けた光線制御型エネルギー投影手法の試験的実装を行うことである.コンピュータグラフィックスの中では,テクスチャマッピングによって質感を容易に書き換えることができる.このような方法を実世界で実現することができれば,物理世界と情報世界の融合を実現する有力な手法になる.そこで本研究では書き換え可能な実物体質感制御の実現を目指す.本提案の基本概念は,物体の表面に化学反応の生じる物質を塗布し,そこにエネルギーを投影して化学変化を生じさせることで,表面を繰り返し書き換えることを実現するものである. 本年度は多発色化のための構造設計を中心に研究を行った.多発色型情報提示に必要な要件として,「1. 複数の色が表現できること」,「2.三次元形状や大面積に展開できる手法であること」,「3.エネルギー投影位置合わせのためのマーカーを組み込めること」の三点を挙げ,その構造を検討した.それらを踏まえ,人の目に近い方から,発色制御層・色彩層・対象物・レジストレーション層からなる多層構造を提案した.発色制御層には黒色の双安定性クロミックインクを塗布し,可視光の発色または吸光の調整を行う.レーザーによって熱を加え,発色制御層を可視光の吸光から透過へと切り替える.その下層には色彩層を配置し,CMY などの多色ドットパターンをあらかじめ印刷しておき,色彩の提示を行う.この時,色彩層の印刷対象として赤外線透過素材を用いる.さらに最下層にレジストレーション層を印刷し,赤外線カメラを用いてレジストレーションパターンを認識できるようにした.本年度はこの提案手法の設計とその原理確認を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,双安定性クロミックインクとレーザー機器による光線制御型エネルギー投影手法を用いた質感プロジェクタの概念実証を行った.概念実証の達成に必要な要素として,「1.実験装置の設計と実装」,「2.階調表現の実現」,「3.マルチカラー化に向けた塗布方法の設計」,「4.触感プロジェクションのための基礎的な検討」を検討している. 本年度は,特に「1.実験装置の設計と実装」及び「3.マルチカラー化」に関して取り組んだ.多色化のためのインク塗布方法を複数検討した上で,インクとして透明化する黒色双安定性サーモクロミックインクを選択し,それをマルチカラードットパタンの上面に一様に塗布した.これによって,発色の有無を制御をすることによる多色化を提案した.多色化の原理の検証用試料として,上下にカラーパターンとレジストレーション用パターンを印刷したものを製作した.双安定性サーモクロミックインクであるフリクションインクとCMYインクジェットインクが赤外線を透過し,かつ黒色インクが赤外線を吸収すれば,人の目には不可視のマーカーを認識する.そこで,この特性を確認すべく,多層印刷による多発色型情報提示の原理検証を行った.赤外線カメラとしてはDC-NCR300Uに,光吸収赤外透過フィルム(FujiFilm IR-88) を取り付けたものを使用した.また背面の光源には850nm のIR LEDを使用した.実験の結果,提案構造が機能することがわかった. また選択的発色の可否を検証した.エネルギー源としては波長401nmの紫外線レーザーを用いた.レーザーの強度の調整によって,黒色フリクションインクが復色可能かつ色が透明化することがわかった.これによって発色型情報の多色化の原理を確認することが出来た.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の多発色型情報提示の設計に基づき,マルチカラーの色彩表現の限界を確認する.印刷による並置加法混色における色彩表現を評価した上で,双安定性サーモクロミックインクの有無による色彩表現と比較し,本手法の限界を示す. また同時に,初年度に実施を見送った網点設計を実施する.網点とは印刷時のドット模様のことである.印刷メディアの多くはこの網点によって濃淡の階調を表現しており,本研究の質感プロジェクタでも同じように網点によって階調表現の実現を目指す.多発色投影原理を合わせて,最小単位として表現できるサイズを検討するとともに,その配置のデザインを行う.
|