研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
16H01669
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鵜木 祐史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (00343187)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 質感認識 / 変調スペクトル / 変調伝達関数 / 変調フィルタバンク / 振幅変調 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,音環境の質感認識にターゲットを絞り,「振幅変調」の概念に基づいてその物体の発する音の質感だけでなく,それが耳に到達するまでに通った伝送経路の質感も認識するメカニズムを理解することである. 本年度は,まず,聴覚末梢系でみられる時間周波数分析/変調周波数分析に相当する処理体系を構築した.ここでは,聴覚フィルタバンク(35個のERB_N帯域通過フィルタバンク)による時間周波数分析とその後段の変調フィルタバンクによる変調スペクトログラム分析(聴覚フィルタバンク出力の振幅包絡線情報に関する時間周波数分析)により,この処理体系を構築した. 次に,音源の変調成分とそれが伝わる音環境の特性が分解可能かどうか検討するために,実際の室内インパルス応答(RIR)の統計的モデルとその変調伝達関数の定量評価を行った.その結果,本研究で提案した「拡張型RIRモデル」が最も精度よく表現できることがわかった. 次に,音の質感認識として「粗さ」に係わる音響特徴を変調スペクトル分析を利用して調査した.ここでは音声の質感認識の一つとして言語・非言語情報の知覚に着目し,この処理体系における信号分析合成系として雑音駆動音声処理を利用して,言語情報ならびに非言語情報(感情と個人性)に関する音響特徴が振幅包絡線情報に含まれるかどうか調査した.その結果,言語情報に関しては4 Hz以下の変調成分が重要であり,感情に関しては8 Hz以下の変調成分が,個人性に関しては16 Hz以下の変調成分が重要であることを明らかにした. 最後に,変調スペクトルの変動成分について調査した.その結果,変調スペクトルの重心や傾斜,skewness,kurtosisが感情知覚で重要であることがわかった.これらの結果を踏まえ,感情の付与・強調が変調スペクトルあるいは振幅包絡線情報の音響特徴を利用して可能であることも確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,①音の質感認識における「粗さ」に係わる物理量が何であるのか,②音の質感認識には音源だけでなく伝送系の質も関係しているのか,そして,③ヒトが音源と伝送系を切り分けて質感認識を行っているかどうか,全体考察も踏まえ,一つ一つ明らかにしていく.最低限の目標として,課題①と②を明らかにし,研究が順調に進むことができれば課題③についても全体考察を踏まえて明らかにする. 本年度は,この中の課題①に焦点を当て,音源の質感認識と音環境の特性(変調伝達関数)の検討を行った.あらゆる音の質感には着手できていないが,音声の言語・非言語情報,特に感情や個人性といったものを質感認識の一つととらえ,その知覚に重要な振幅包絡線情報(変調スペクトル情報)を明らかにした.また室の変調伝達関数と音の変調スペクトルとの関係性を明らかにすることもできた.そのため,課題①に関してはおおむね達成できていると判断できる.また,課題②のうち,室内インパルス応答(RIR)の統計的モデルとその変調伝達関数について最適なモデルの検討と「拡張型RIRモデル」の提案にも至った.この特性と音源の変調スペクトルの関係性について議論が可能となったため,課題②についても順調に進めていくことができる. 以上から,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の切り口は,(i) 音源の変調成分(変調スペクトル)とそれが伝わる音環境の特性(変調伝達関数)が分解可能であり,(ii) 聴覚系に備わる変調周波数分解(変調フィルタバンク)の機能においても,これらを分離してそれぞれの質感を認識していると考えることである.音源・伝送系・聴知覚の一元処理における「振幅変調」の概念に基づいて,音の質感を認識するメカニズムを理解することができれば,(1) 音の質感認識における「粗さ」に係わる物理量が何であるのか,(2) 音の質感には音源だけでなく伝送系の質も関係しているのかを突き止められるはずである. 次年度は次のような計画で実施する予定である,まず,室の伝送系の影響から変調周波数領域の特徴がどのように変化するか,またそれに合わせて質感認識がどのように変化したかを関連付けて議論する.聴覚末梢の処理体系にて,聴覚フィルタバンクを通過した信号の振幅包絡線情報に関してスペクトル分析するものが変調フィルタバンクの出力になる.ここでは,観測信号だけではなく,室内音響の特徴も変調フィルタバンク出力にてどのように表現され,質感認識に影響を与えるか議論する.
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備考 |
TV取材,「音をデザインする」テレビ金沢・となりのテレ金ちゃん,鵜木祐史・北陸先端科学技術大学院大学,放送日 2016/9/7
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