研究実績の概要 |
質感脳情報学(H25年度~H26年度)の公募研究では,プロジェクタアレイを用いて構造色物体(光学ディスクやモルフォ蝶など)の質感を提示する技術を確立した. この研究では,拡散反射物体の反射特性に指向性を与えるために,塗装によって物体表面に再帰性反射加工を施していたが,我々の身の回りにはシルクのような織物,金属のヘアライン加工のように,微細構造により反射特性が非単調なBRDF(双方向反射率分布関数)で表される物体もある.特に,美術品や工芸品にはそのような特性を持つ作品が多く,この特性をそのまま利用すれば,原理的には再帰性反射加工を施すことなく見た目のBRDFを変換することが可能である. そこで,本研究では引箔を施した西陣織の帯地を題材として,知覚される見かけのBRDFを操作するプロジェクションディスプレイ技術の実現を目的とする.そのために,S1. ライトフィールド投影と圧縮センシングを用いた動的なBRDF解析手法.S2. ライトフィールドフィードバックによる見た目のBRDF変換手法の2つを明らかにする. 本研究に関連する成果としては,H28年度には画像センシングシンポジウムSSII2016にてオーガナイズセッションを企画・実施した.また,SIGGRAPH ASIA 2016, IEEE VR2017での発表のほか,学術論文(掲載3件,投稿中1件),招待講演(3件)などの成果も得た.また,特許を1件申請している. その他の成果には,富士通ソーシャルサイエンスラボラトリ他の協力により,日本橋三越本店に鎮座するまごころ像(1960年, 佐藤玄々作)に対して研究成果を応用した演出を行った.この様子は,日刊工業新聞,日本経済新聞,朝日新聞などの紙面やNIKKEI NET, 産経ニュース, 朝日新聞デジタル, 日本橋経済新聞などの50以上のニュースサイト,MXテレビなどで紹介された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,研究目的で示したS1に関して,A1: 引箔・模様箔の構造調査と光学モデルの構築,A2: 短焦点ライトフィールドプロジェクタカメラ系の製作,A3: 圧縮センシングを用いた引箔・模様箔のBRDF 測定方法の確立を実施した. A1については,引箔の織り構造による反射特性をBRDFとして表現するのではなく,対象に投影されたライトフィールドと撮影されたライトフィールドの関係から,物体表面の反射特性を反射率行列として表現する手法を確立した.また,A3として,この反射率行列を基底の線形結合で表現する近似モデルを構築し,一回のライトフィールド撮影で近似的に反射率行列を求める手法を確立した. A2については,計画通り4対のプロジェクタとカメラを用いたマルチカメラ・マルチプロジェクタ方式のライトフィールドプロジェクタカメラ系を製作した.またA2では,カメラとプロジェクタの幾何学的な画素の対応関係をピクセルマップで表現し,ピクセルマップの多段階参照を行うことで,プロジェクタの投影画像を任意のカメラの視点へ変換する,あるいは,あるカメラの画像を別のカメラ視点の画像に変換するなどの,自在な画像の視点変換を実現した. 上記のように計画していたA1,A2,A3について順調に成果が得られているため,概ね順調と判断する.
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